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ローリング・ストーンズ・イン・ギミー・シェルターのKKMXのレビュー・感想・評価

3.8
 1969年12月6日にカリフォルニアのオルタモントという場所で行われたストーンズのフリーコンサートの様子を収録したドキュメンタリー。このフリーライブは混乱と暴力に満ち、死者4人を出し、その内1件は殺人という最悪の事態を引き起こし、史上稀に見る大失敗のイベントでした。そして本作にはその殺人のシーンが偶然収められているという非常に生々しい映像作品となっています。

 オルタモントのフリーライブおよびその映画化が企画された理由は、ミック・ジャガーのウッドストックへの対抗意識と言われています。この年の夏に有名なロックフェス・ウッドストックコンサートが成功しました。そして、ウッドストックは映画化されることが判りました。ウッドストックに出演できなかったストーンズ(ミック)は、かなりムカついていたみたいです。そのため、ウッドストックの映画よりも早く、自分たちが仕切るフリーライブの映画を上映させて溜飲を下げたかったとの説があります。
 つまり、ミックとしては『ウッドストック以上の成功を収めたストーンズのフリーライブ映画』にしたかったのですが、結果的に本作はロックのダークサイドを克明に記録したドキュメンタリーと相成りました。

 さらにこの時期のストーンズはかなりイケイケでした。60年代後半は長らくスランプに陥っていたストーンズでしたが、68年にシングル『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』をカマしてから大復活を遂げ、ジャンキーで役立たずの元リーダー・ブライアンを追放し、名手ミック・テイラーを加えてバンドもパワーアップ。さらに音楽性も格段にレベルアップし名盤も連発。しかも69年の7月にはイギリスのハイドパークで30万人規模のフリーコンサートを成功させました。

 ……と、こんな感じだったのでミックの野郎も調子に乗ったんでしょうね。この年の11月にストーンズはアメリカツアーを開始します。そして、11月26日に、最終日である12月6日にフリーコンサートを行う旨、突如宣言します。このように、本作のライブは完全見切り発車、しかも時間がまったく無いという現在ならば完全炎上案件だったのです。
 案の定、会場も決まらず、オルタモントになったのはなんと直前で、前日に会場が公式発表されるという始末。しかも警備をするのはバイカー集団を名乗るヤクザ、ヘルズ・エンジェルです。本当に無茶苦茶、客観的に見れば誰もが上手くいかないと思うイベントでした。しかし、万能感に取り憑かれたミックはイケイケで、破滅街道を爆進します。


 さて、本作はそんな炎上フェスを収めたドキュメンタリーですが、前半と後半で内容が異なります。前半はオルタモントまでのアメリカツアー、後半が炎上フェス・オルタモントです。

 前半のライブはなかなか良いです。どうもこの時期からストーンズのグルーヴが変わったような印象を持ちました。ブライアン期のストーンズは若々しいスピード感が持ち味だった印象ですが、この時期になるとスローダウンしグルーヴが少し重くなるように思いました。JJFやサティスファクションはあまり良くないですが、ホンキートンクやストリートファイティングマンはめちゃくちゃ説得力がある。実際にこの頃から黄金期が始まったので、現在に連なるストーンズサウンドがライブ面でも完成に向かっていたように感じました。

 そして問題の後半。炎上フェスは観客からして無茶苦茶です。当時はフラワームーブメントに沸いており、ドラッグをキメるのが当たり前の時代。それ故、会場では堂々と売人がヤクを売り捌き、観客の多くはラリっておりました。そんな中でストーンズが会場に到着するといきなりミックがラリった客にブン殴られます。不穏すぎるオープニングに、キースは「暴力のはじまりだぜ」と言い捨てらしいです(監督談)。このライブに前のめりなのは明らかにミックであり、キースはかなり引いた目線だったのかもしれません。現場で質の良いヤクをキメられればいいや、くらいの期待はあったと思いますが。

 前座にフライング・ブリトー・ブラザーズとジェファーソン・エアプレインが登場しました。ジェファーソンの時は、とにかく会場警備のヘルズ・エンジェルズが客を殴る、殴る!文句を言ったジェファーソンのメンバーもブン殴られて、さらに混迷を極めます。

 ストーンズが登場すると会場はさらに暴力の渦に。ヘルズ・エンジェルズのメンバーはステージ上をノシ歩き、何故か犬までステージをウロウロする始末。ヘルズ・エンジェルズのひとりにズームが合う瞬間があり、ミックを見つめる目が完全に殺し屋のそれでした。よくまあこんなヤバい連中を呼び込みましたよ。
 挙げ句の果てに殺人ですよ。会場にいた黒人の若者、メレディス・ハンターがヘルズ・エンジェルズと揉めてピストルを取り出した瞬間、エンジェルズに刺殺されます。その瞬間をカメラがちゃんと捕らえており、引きの映像だけど非常にヤバかったです。メレディスがライムグリーンのスーツだったので、暗闇でも目立つんですよ。

 本作は演出として、編集室でミックとチャーリーが映像を観るシーンがたびたび挿入されます。この時の2人の表情が実に味がある。チャーリーは皮肉っぽい苦笑をたまに浮かべつつも厳しい表情で、ミックはかなり思い詰めていました。メレディス刺殺の瞬間は、特に凄まじい顔つきでした。己の思い上がりで、とんでもない事態を巻き起こしてしまった……無言の表情からはそのように読み取れました。
 

 しかし、そんな二度と触れたくないバンドの完全黒歴史をちゃんと映画化し、上映したのはミックの凄みだと感じます。ストーンズというモンスターバンドを今に至るまでしっかり牽引するだけあり、たいした男ですよ。純粋なロッカーとしての魅力はキース大先生に敵いませんが、この男のあらゆるマイナスを引き受けてもなお前に進み続ける力は尊敬に値します。それもまたロックンローラーだと思いました。
 とはいえ、キースが自伝で「ミックのチ☆ポはミニサイズだぜ」と機密情報をバラし、ミックガチ切れで解散危機に陥ったりしましたけどね……しかも結成50周年ごろに。スゲーのかバカすぎるのか振り幅がデカすぎる!


 最後にビルの悪口。本作には合計10秒くらいしか登場しないストーンズのチンポ脳ですが、前半のアメリカツアーではベースビン勃ち、後半のオルタモントではディー・ディー・ラモーンかと紛うほどベースを低く構えてました。
 ビルのクソ野郎がベースを高く構える時は、会場に来ている今晩セクロスするナオンを物色するためなのです。さすがにオルタモントではセクロス相手を探すゆとりはなかったようですね。
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