horahuki

ベロニカ・フォスのあこがれのhorahukiのレビュー・感想・評価

4.1
個人と国をリンクさせた精神の死!

久々のファスビンダー。1930年代にドイツで活躍し、1955年に自殺したシビルシュミッツの悲劇から着想を得た作品。華々しい女優としての過去と、凋落した今の違いを受け入れられずモルヒネ中毒になる大女優ベロニカフォスと彼女を救おうとするスポーツ記者の奮闘を描く監禁ホラー。

普通に監禁ホラーでビックリした😂理想と現実の断絶に心が耐えられないベロニカは、モルヒネを処方してもらうために自身の別荘や宝石を含めた財産全てを担当女医に譲渡する約束をしていて、女医側も「私があなたの一番の親友よ♫」とか言ってだまくらかして、ベロニカをヤク漬けに…😱

被害者はベロニカだけじゃなくて、過去のトラウマに悩んでいる優しい老夫婦にも「モルヒネ打ってあげる♫」とか言って釣り、死んだら財産を全てもらう遺言が死因贈与か何かの契約をしてるというクソっぷりに腹が立つ!そんな闇しかない病院の院内は強烈な白のみでデザインされ、モノクロの本作ではその毒々しさが対比的に異様に映る。

この2組に共通しているのはナチスドイツの面影。老夫婦はトレブリンカ強制収容所の生き残り。ベロニカはゲッベルスの名前からもわかる通り、ナチ党が72%の株を保有していた映画会社ウーファ(プロパガンダ映画を量産)の看板女優だったために戦後(本作の舞台は1955年)になると映画の仕事ができない。その意味ではナチスの被害者・決して忘れてはならない過去そのものとして設定されている彼女らをモルヒネでヤク漬けにすることで封じ込め、誰も見て見ぬふりをするかのように救いの手を差し伸べようともしない。

ベロニカの過去と今との断絶と同様に、ベロニカを救おうとするスポーツ記者の主人公にも心的に断絶があり、詩人への願望とスポーツ記者の今との解離に苦しんでいる。過去を完全に封じ込めるクライマックスでのベロニカの行動とリンクするように主人公は薬を飲む。戦争が終わってもこれからのドイツはクソ医院のような「綺麗な外観を意図的に装った闇」に支配される。ファスビンダー監督は恐らく「芸術」に未来を託す意図があったのだろうけれど、その「芸術」である詩への思いを薬を飲むことで封じ込め、スポーツ取材へと向かう主人公をラストシーンに持ってきているのは非常にファスビンダーらしい。こんなこと書いたら怒られそうだけど、ナチスとオリンピックの関係を考えると、綺麗な外観を持つスポーツをその例示として提示しているのだろうと思った。知らんけど。

そして昨日の『プロミシングヤングウーマン』と同様に精神の死と肉体の死の関連性についての分析も本作は提示している。精神の死が行き着く先はどこなのか…を個人であるベロニカの向かう先に託すことで、その意図を国にそのまま転換する。非常にペシミスティックな良い作品だと思いました。というかこれファスビンダーの遺作なんやね。良く知らないのだけど、この作品後に自殺したの?自身の芸術活動をベロニカとダブらせる意図があったのかは知らないけれど、何かそういう意味でも意味深な作品…。
horahuki

horahuki