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秒速5センチメートルのkuuのレビュー・感想・評価

秒速5センチメートル(2007年製作の映画)
3.8
『秒速5センチメートル』
製作年 2007年。上映時間 63分。
映倫区分 G
新海誠による2007年公開の劇場作品で、ひかれあっていた男女の時間と距離による変化を全3話の短編で描いた連作アニメーション。
主題歌には山崎まさよしの"One more time, One more chance"を起用した。
『秒速5センチメートル』ちゅうタイトルは、桜の花びらが散る速さに由来しているそうな。
花びらは人間を比喩的に表現したもので、人生の遅さや、人はしばしば一緒に始まりながら、ゆっくりと別々の道を歩んでいくことを連想させてくれる。

互いに思いあっていた貴樹と明里は、小学校卒業と同時に明里の引越しで離ればなれになってしまう。
中学生になり、明里からの手紙が届いたことをきっかけに、貴樹は明里に会いにいくことを決意する(第1話「桜花抄」)。
やがて貴樹も中学の半ばで東京から引越し、遠く離れた鹿児島の離島で高校生生活を送っていた。同級生の花苗は、ほかの人とはどこか違う貴樹をずっと思い続けていたが……(第2話「コスモナウト」)。 
社会人になり、東京でSEとして働く貴樹。
付き合った女性とも心を通わせることができず別れてしまい、やがて会社も辞めてしまう。
季節がめぐり春が訪れると、貴樹は道端である女性に気づく(第3話「秒速5センチメートル」)。

幼少期から10代、そして、青年時代を経て成人。
そこに至るまで、友人はいた。
しかし、時が流れ、その時代の中で友人たちは、歩むべき道のためにいつも別々の道を歩まなければならなかった。
彼らのことは今でも覚えてるし、折に触れ考える。
これは誰もが直面したことのあるほろ苦い現実やし、今作品はそれを見事に捉えている。
映画監督のテレンス・マリックは、映像の詩人とも呼ばれてる。
同じように、新海誠はアニメの詩人と個人的には思う。
彼の過去の作品には共通項があるが、今作品はそれとは異なり、つながりながらも手放すことを描いている。
遠距離恋愛の厄介なところは、その距離の遠さにある。
二人が同じパラメーターの中で十分に親密でない場合、二人はうまく交流できず、絆が弱くなる。
しかし、この物語のポイントは、行き先が違うにもかかわらず存在した絆を、両者とも思い出してほしいだけ。
だからこそ、観る者はサスペンスに浸り、最後にもう一度だけなら、どうにかして2人が再び結ばれることを願う。
2つ目の『コスモノート』では、1つ目の物語に登場した年上の男の子が登場するが、サーファーの女の子がいる。
この物語の2人の登場人物は、時間や距離の問題ではなく、お互いに自分自身に対してフェアでない。  
2人はこの世であらゆるチャンスを持っているように見えるし、神でさえも実質的にそれを与えている。
最も興味深い場面のひとつは、少年が遠い惑星にいて、見覚えのある女の子と他の惑星を眺めている夢を見る場面。
この少女は、彼が現実に接している少女と同じであり、彼は無意識のうちに彼女を欲しているが、その欲望に実際には耳を傾けていない。
そして、少女が同じ夢を見ているのを見ると、彼女はその欲望に耳を傾けているが、潜在意識が命令しているのに従っていない。
2DアニメーションとCGIを組み合わせた美しいアニメーションは、背景の一部に自然の美しい感性を生かし、文字通り風が吹いているのが感じられる。
そして、ロマンチックでありながら物悲しい音楽も美しい。
最初の物語は、遠距離恋愛と友情の物語。
興味深いのは、双方向のナレーションで語られること。
少年と少女の幼少期から10代前半までの友情と、遠距離でも連絡を取り合う様子を見聞きするんやけど、手紙とは裏腹に互いの言葉が薄れ始めているのがわかる。
この物語は、ほとんど自伝的な作品と云ってもいいほど、心に響いた。
なぜなら、これは多くの方が経験したことであり、小生だけでなく、他のほとんどの人も同じ状況に置かれていると思うから。
小生が故郷を離れたとき、嫌でも友人と距離が出来た。
でも友人たちは心の中に永遠に生き続け、遠く離れていても永遠につながっている。
そう信じたい。
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