Sari

煉獄エロイカのSariのレビュー・感想・評価

煉獄エロイカ(1970年製作の映画)
4.0
「日本近代批判三部作」第二作。
第一作の『エロス+虐殺』(1968)と同じスタッフが集結して製作したATG作品。
また、『エロス+虐殺』と第三作『戒厳令』(1973)が、実話にインスパイアされたセミフィクションであったのに対し、『煉獄エロイカ』は、詩人で脚本家の山田正弘氏と喜重監督が共同執筆した完全オリジナル作品である。

『エロス+虐殺』は大正のアナーキスト大杉栄と伊藤野枝の痴情を描いたものだった。
本作の前年1969年は、安保闘争やベトナム戦争反対運動など、学生運動や新左翼の政治闘争が最も盛んだった時期。

現在原子力機構に携わる研究職員の夫。ある日、妻が見知らぬ少女を家に連れてきた。と言うより、得体の知れない少女の方から彼らの家庭に入りこんできた。妻はその少女が夫の過去に何らかの関係があると信じ、それを裏付けるように夫の友人が現れる。夫には隠された暗黒の過去があった。戦後日本の前衛党は非合法化された時代、大学生だった夫はメンバーの末端で、当時計画されたアメリカ大使誘拐事件に加わったが、前衛党の挑発行為による裏切りにあい、暗い影を背負って生きてきた。しかし夫が党の方針に従わず、裏切りを働いたとされ、リンチを受けて吊るされるという不条理劇である。

現代詩のような小難しい台詞は健在で、白黒映像の無機質さ、時に白のライトを当てることで映像が飛ぶ。幾何学的な構図、一柳慧の心をかき乱すような不穏な音楽と叙情的なコーラス。

1952年、1970年、1980年へと、主人公らが時間軸を超越するだけではなく、その時代の登場人物たちまでが別の時代へと入り乱れ、テロリスト役を演じたりマスコミ役を演じたりするのだが、まったくもって説明が皆無なので、観る者は混乱状態に陥る。
時間軸のパラレル展開、白黒のスタイリッシュな映像、話はまったく違うが不条理極まりない展開はアラン・レネの『去年マリエンバートで』を想起した。

しかし難解なストーリーを置いて、画面構成が『エロス+虐殺』を超えるレベルの、緻密で精細な計算のもとに撮影されているのが、素人目にも分かるほどの完成度である。全てのカットが宣伝のヴィジュアルになり得るスタイリッシュさを極めている。
森英恵の衣装、岡田茉莉子のヘアメイクも素晴らしい。これほど不可思議で完全無欠な作品は、もう二度と出て来ないだろう。
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