櫻イミト

パフォーマンスの櫻イミトのレビュー・感想・評価

パフォーマンス(1970年製作の映画)
4.0
制作は1968年。ミック・ジャガーの劇映画初出演。ドナルド・キャメルとニコラス・ローグ(撮影兼)の監督デビュー作。ギャング+ヒッピーのカルトな一本。

脅し専門の狂暴なチンピラ、チャス(ジェームズ・フォックス)は、ボスの命令に背いて殺人を犯し逃亡する。たどりついた邸には元ロックスターのターナー(ミック・ジャガー)と2人の女が暮らし、ドラッグ、フリーセックスと快楽に溺れる生活を送っていた。。。

前半は過激なネオ・ノワール、後半からミック・ジャガーが登場しサイケ映画になるという異常な構成に驚いた。特に後半のヒッピー描写はミックとアニタ・パレンバーグ(ブライアン・ジョーンズ~キース・リチャーズの恋人)の存在が本物感を高めて秀逸。また、ローグ監督のエキセントリックな撮影とフラッシュフォワード編集の多用は後の「赤い影」(1973)を彷彿とさせる。

マッチョな縦社会に縛られるギャング世界と、すべてからの解放を望むヒッピーとは何もかもが真逆。対照的な両者を並べることで、それぞれの個性が際立っていく。本作ではさらに、ちぐはぐな両者の融合を試みているのが面白い。映画を使った思考実験とも言える。

観ているこちらも思考が試される。前半の究極ノワールから後半の究極ヒッピーへと
ジャンルが変換し、共感がなかなか追いつかずとまどう自分を自覚した。その感覚は現実での”体験”に近いものがあった。

「郷に入れば郷に従え」という言葉を思い出す。自分の映画の見方はまさしくそれなので、なおさら本作の映画途中での土俵(価値観)の転換に面食らったのだと思う。このような映画は他に思い出せず、カルト化するのも納得の異様な傑作だった。

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例えば本年の「君たちはどう生きるか」は賛否両論で、現時点でのYahoo総合評価はスコア2.9だ。同作はアート的な側面があるので、エンタメの土俵しか上がらない人からは「おもんない」の一言で切り捨てられたことだろう。

どの土俵にも上がる器量を持ちたいと思っているが、実社会で土俵の違いを解さない相手とのコミュニケートをどう克服するか?本作は再考察のキッカケになった。
櫻イミト

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