7月5日はフランスの芸術分野においてマルチな才能を発揮した天才ジャン・コクトーの生誕128周年。
詩人からキャリアをスタートさせ、多岐に渡る創作活動の中で次々に成功を収めていったコクトーは、
その生涯で戯曲・映画・続編映画と、実に三度もギリシャ神話「オルフェウス」を手掛けてきました。
竪琴の名手オルフェが妻ユリディスの死を救うため地獄から彼女を連れ戻し、最後の最後で…。という従来のあらすじを現代風に換骨脱胎させ、更に竪琴もコクトーらしく"詩"に置き換えた冥界ラブストーリー。
かつて彼が監督デビューを果たした「詩人の血」では、その詩的表現を爆発させた映像がブニュエル「アンダルシアの犬」のようなシュールレアリスムを彷彿とさせ(実際「詩人の血」とブニュエルの次回作「黄金時代」は同じパトロンの出資で制作された)、
イメージ先行の強烈なアヴァンギャルド作品を生み出しました。
それから18年後、着実に映画監督としての実績を積んだコクトーは、あらゆる映像技巧を盛り込みながら異世界の奇怪な風景を作り上げ、彼の最高傑作との呼び名も高い本作を完成させたのです。
一方で「詩人の血」で採用した鏡への侵入、映像の逆再生、床に壁の装飾を施して撮影した不思議な夢遊歩行など、より成熟した映像表現と演出によってリメイクされた「オルフェ」は、
"死"と"愛"という彼の詩人としての絶対的エレメンツを添加させ、映画という媒体を用いて詩の命を吹き込むことに成功したとも云えます。
妻以上に美しき死神と惹かれ合うオルフェ、妻ユリディスに恋をする死神の従者ウルトビーズ。
この生死の境界を越えた愛の構成が悲恋と哀愁に満ちたドラマを生み出し、詩人コクトーは現代においてまったく新しいギリシャ(フランス?)神話を創造したのでありました。