ばーとん

女医の記録のばーとんのレビュー・感想・評価

女医の記録(1941年製作の映画)
4.5
無医村医療モノの雛形の一つ。東京の医学校の女医や医学生が山奥の村へ突然やってきて、無償で医療行為を始めるというのも不思議な話で、国家の公衆衛生計画のようなプロジェクトの下に厚生省の要請で派遣されたとか、大方そんなところだろうが、まぁ、そんなことはどうでもいい。

古い因習を改革する新時代の女性、という構図は「信子」と似てる。ここでも清水の視点は中庸に近い。古いしきたりの象徴として「行者」が登場するが、彼はコメディリリーフでもある。病弱の女の子を紡績工場に斡旋しようと村外へ連れ出すんだが、駆け付けた佐分利信先生にめちゃくちゃ怒られる。「すみません」と平謝りする行者に「すまんと思うなら峰を背負って帰れ」と先生。ここで行者を村から追い出してしまわないことが重要。彼は終いに女医らの宣伝マンと化している。法螺貝を吹き鳴らし「衛生講演会がありまーす」と触れて廻る様子がおかしい。行者は行者なりに今後も村でしたたかに生きていくのだろう。

村に残る決意をする田中絹代に「村の子供たちの邪魔になってはいけない」と釘を刺す森川まさみ女医。部外者面をして施しの精神のままで残っても害にしかならないということだ。「私、自分というものを..."わたくし"を捨てて残るんだわ」と気付く田中。改革こそ善、とはしないこういう中庸なところが清水らしくて本当に好き。

すっかり村人らしい出で立ちで、赤ん坊にミルクを配る田中絹代。その後ろでは佐分利信が生徒たちと体操している。結婚して子を設けたのだろうか。この一分程度のワンカットで、余計なセリフもなしに後日談を全て語ってしまう、洒落たラストシーン。個人的には清水映画の中でいちばん気楽に楽しめた。

ところで清水映画に複数本出演している森川まさみさん。調べてみると101歳の高齢ながらいまだ存命のようで嬉しくなった。女優さんて意外と長寿の人多いんだよね。
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