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浪人街のsowhatのネタバレレビュー・内容・結末

浪人街(1957年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

4人のバカ浪人vsサディスト旗本バカ軍団



4人の浪人たちと、一人の浪人を取り巻く二人の女。
彼らはアウトサイダーで貧乏ではあるが、弱者には見えない。
旗本たちにもタメ口で堂々と立ち向かう。
卑屈さも屈託も武士の矜恃も感じない。
そんな演出のせいで4人がバカに見えるのが残念。

浪人同士、なにかあればすぐに刀を抜くが、もちろんフリだけで命のやり取りをしようなどとは思っていない。
あくまで見世物の「抜刀踊り」である。
そんな彼らの生き様にはまるで緊張感がなく、ただ無為に過ごしているように見える。
それぞれ大きな欠点を抱えている4人は、酒で憂さを晴らしながら社会の片隅でくすぶっている。
そんな彼らは、ほんの些細な口げんかが元で、悪役旗本軍団と抗争状態に陥ってしまう。
その間で右往左往する二人の岡っ引き、気のいい二人が狂言回しとコメディリリーフの二役を担う。

浪人① 荒牧源内(近衛十四郎)
「女を虐げるホストみたいなバカ」
女スリお新のヒモとして生きる。
女にはモテるが、利己的で卑怯で優柔不断な男。
浮気相手の小芳に背中を押され、やっとお新救出に立ち上がる。
抗争の末に真実の愛に目覚め、二人で江戸を出奔していく。

浪人② 赤牛弥五右衛門(河津清三郎)
「自分のことしか考えないただのバカ」
境内の市で見世物をして小銭を稼ぎ生きる。
自分だけ職を得ようとちゃっかり旗本と仲良しに。
お新も源内もそんな赤牛のせいで死地に陥る。
なぜか再度寝返り死ぬ。
立ち位置も行動原理もよく分からない。

浪人③ 母衣権兵衛(藤田進)
「振り向いてくれない女に命を捧げる、カッコ付けバカ」
境内の市の警備で小銭を稼ぎ生きる。
浪人を束ねる実力者、人間的にも立派だが、惚れた女(お新)には振り向かれない。
しかも事後、なぜか一人で抗争事件の罪を被ってしまう。

浪人④ 土居孫八郎(北上弥太郎)
「普段は偉そうなくせに、大事なときに役立たずバカ」
唐傘張りをして小銭を稼ぎ生きる。
武士の矜恃と屈託を抱えた男。
いざとなると酒をあおり、現実逃避。
自分は寝てただけなのに、賢い妹に救われ無事再仕官の夢が叶う。

源内を取り巻く二人の女
①女スリお新
源内の術中にはまったお新は、どんなに冷たくされようが、暴力を振るわれようが、ただひたすらに尽くし続ける。
二人の関係は構図的には現代のホストとキャバ嬢か。
ただただ無力で男の言いなりになっているだけだが、やっと一途な愛が通じたのか、最後に源内をゲット。
②湯女小芳
プロの女性であるが、登場人物の中で唯一バカじゃない。
お新に対する気遣いも忘れず、源内に人としての道を説き、倫理的にも立派な人である。
ラストカットは彼女の姿。

バカな赤牛や悪徳商人の介入のせいで、抗争はエスカレートし、旗本側は捕らえたお新を牛裂きの刑に処すことに。
それを見物しようと集まった数十人の旗本仲間と源内、権兵衛の斬り合いがクライマックスとなる。
あくまで見世物だったはずの「抜刀踊り」が、バカでサディスティックな旗本達のせいでほんとの殺し合いになってしまう。
ただ、演出が軽いせいかそこに凄惨さや残酷さはみじんも感じない。
バカとバカの殺し合い。
みんなが踊りながらパタパタと倒れていくだけ。
リアルな斬られた描写もない。
ずっとコメディタッチで進んで来た本作は、ラストだけシリアスムードの演出で終わるが、深い余韻は残さない。
刀を合わせる夜のシーンで火花が散る演出はやっぱりカッコイイ。
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