むっしゅたいやき

キックボクサーのむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

キックボクサー(1989年製作の映画)
3.8
卒爾ながら、尋ねよう。
レビュアーの皆様は、全く意図しない時、皆目意識すらしていなかった言葉を、ぽつりと呟いてしまった事は無いであろうか。

私は、ある。
今日、遂にやってしまった。

代表以下の同僚士業諸氏が居並ぶWeb会議の中、重苦しい沈黙を破り、敬愛する上席の顔面から鼻水を噴出させたその言葉─。


─ジャン=クロード・ヴァン・ダム。


ヤツの名である。

断っておくが、私は断じて彼のファンでは無い。
好悪の前に、よく知らぬ、と云うのが本当の所である。
顔も思い起こせぬし、声も知らぬ。
脳細胞の片隅に其の名が刻まれていた事には今回気付いたが、意図的に調べた覚えも無ければ何らかの情動も無い。
正味今回調べるまで、名前を「ヴァン・ダム」と、中点を設けて表記する事すら知らなかった。
一言で言えば、「興味の無かった男」である。

そんな彼の名を、何故あの腹の探り合いの緊張感の中で、自信満々に呟いてしまったのか。
─私には、未だに分からない。

ともあれ、週明けに予想されるかの上席からの報復を前に、知見を広めるべくヤツの出演作品を鑑賞する事にした。

そこで目にしたのが、
『キックボクサー』─、本作である。

…私が八月末に改めた、新たなニックネームは、『たいきっく』─。

余りに縁(えにし)を感じるこのタイミング、このタイトルにして、この主役。
ヤツが、私を喚んでいる。
今なら自信を持って言い訳が出来る。
『あの発言の真因は、マイクの切り忘れではなく、ヴァン・ダム、─否や、此処は親愛を込めて“ジャン=クロード”と呼ぼう─が小職を喚んだのです』、と─。

併し、此処まで書いて、ふと思った。
…これは真逆、…「恋」?
「恋」なのではないか?
世に溢れる漫画等で、恋人の名を呟くと云うあの展開、あれでは無いのか?

否や、落ち着け、私。
幾ら女性の様に可愛らしく科を作ってみても、現実のお前は紛れも無くアラフォーのおっさんだ。
昨夜も若さを勘違いした儘、独り真っ赤な四川水煮牛肉を食べて、夜っぴてお腹ぐるぐる、朝にはトイレで悶絶したじゃあないか。
恐らくこれは、以前ジェロム・レ・バンナの名を「語感が宜しい」と感じた事が有ったものを、ジャン=クロードがそのポジションに取って代わっただけのものだ。
其れを口遊んでしまっただけだ。

…済まぬ、少し混乱した。

作品の内容に就いては、割愛する。
私も、タイの観衆と共に「ナック・スー・カウ!」と叫んでいた事だけは申し添えておく。
九月の指針を「クール・ビューティー」としている自身にとり、早くも禁を犯してしまった感があるが、偶にはこう云う事も有る。
昭和の詩人も言っているではないか、
─だって、「にんげんだもの」、と。
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