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バーシティ・ブルースのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

バーシティ・ブルース(1999年製作の映画)
4.5
年頃の息子さんを持つお父さん必見!安易な展開に本作と同じ製作年のアメリカン・パイを彷彿とさせるくだらないシーンの数々。批評的には酷評されたものの大ヒットを記録した90年代青春ドラマの金字塔。古本市場でアメリカン・パイのDVDを手に取ってる中学生男子がいたらこっちにしときなさいと声を掛けて回る仕事をしたい(ブックオフでもいい)。大志を抱く全ての少年に送るべき傑作。タイタンズを忘れない、ルディなど真面目な有名作品を抑えて最も優れたフットボール映画と紹介されることも多い映画。納得です。

高校のクラブ活動は本来生徒のためのものなはず。なのにこの映画のアメフト部は、どこかの国にいた独裁者のような老害コーチ・バッドの所有物になっている。ベンチ上がりの主人公を中心にちょっとおバカだけど真っすぐな高校生たちが反旗を翻し「自分たちのやり方で」勝利を掴もうともがく姿が描かれます。

根強く囁かれるのは、このバッドこそが映画の本当の主役だというものです。この説は一理あると思います。テキサス州の田舎の若者をなんとかスポーツ奨学で大学に進ませて、上に言われた通りに真面目に労働する一人前の社会人に育てる。このコーチはかつて社会に求められた通りの若者を育てた名コーチだったのです。しかし時代は変わる。

産業構造の変革:バッドの指導の特徴は、命令に従うこと・定型通りの戦略で戦うことです。しかし機械化・IT化が進んだ現代では仕事を言われたことを機械のようにこなす人間よりもクリエイティブで変化に応じて能動的に働ける人材が求められます。

企業の社会的責任(CSR):バッドは、とにかく試合に勝ちさえすれば何でもありで、選手の心と身体の健康を無視し人種差別もし、また選手が地域で問題を起こしても警察に黙殺させます。しかし現在の企業にはただ利益を出すだけではなく人権やコンプライアンス、地域社会への配慮が求められます。

勝ちにこだわり30年以上指導してきたバッドが、実は将来社会で通用せず負け犬となる人材を育成していたとは痛烈な皮肉。この映画は時代に必要とされなくなり、ついに若者に捨てられた男の切ない物語です。泣きました。

日本でもスポーツ指導の在り方ってよく話題になりますが、確かにスポーツの成績だけ考えると根性であれこれ厳しく指図する鬼コーチもありだなとなって話がややこしくなる。鬼コーチが不要な理由は極めてシンプルで、そんなコーチの元で育った人材など今の社会は必要としていないんだよとこの映画の若者は教えてくれます。いつの時代も若者とその行く末を追いかけ続けてきたMTV、よくわかってます。これ、20年以上前の、しかも中学生男子向けのふざけたテイストの作品ですからね。ほんと脱帽です。

まとめ:着替えを覗かない男はカッコいい(ちょっと目が泳いでたけどね...)。
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