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俺は待ってるぜのkuronoriのレビュー・感想・評価

俺は待ってるぜ(1957年製作の映画)
4.0
「俺は待ってるぜ」
石原裕次郎の初期の映画です。
曲が先なんですね。
ヒットした曲に触発されて、お兄さんの石原慎太郎が書いた小説を元に、慎太郎氏自身が書いたシナリオで、蔵原惟繕が監督デビュー作として撮った映画。
相手役は北原三枝(石原まき子夫人)。
いわゆる日活アクションのハシリになった作品です。
以上の情報を踏まえた上で鑑賞。

舞台は制作当時の横浜。
夜霧が流れて、貨物を引いたSLが走る。
(?…SLっていうと凄く古く感じるけど1957年って…そうか…寅さんでもSL出て来るもんな)
モノクロスタンダードの画面。
逆光の海にふたりのシルエット。
ハイウエスト気味のタック入りパンツに肩幅の広いダボッとしたテーラードジャケット(バブル時代っぽいけど、これはバブルのころのデザインの根底にこの時代のファッションへのリスペクトがあるからで、こっちが元祖。)で、少し背中を丸めて両手をポケットに突っ込んだ慎太郎カットの裕次郎と、黒のハイネックにミモレ丈のタイトスカート、ハイヒールのパンプスをはいた北原三枝。
二人とも、どんだけ足が長いのさ(笑)。しかも北原三枝のウエストの細いこと!
裕次郎の経営するレストランの佇まいやそのころの元町(?)の様子。
すべて、モノクロスタンダードにまとまることによってまるで昔のフランス映画のような趣に見えてくる。(言い過ぎか?)
正直に言って、今まで映画をみるときあんまり撮影の方を意識して観てなかったのですが、本作は「これって撮影監督誰?」と調べてみると、高村倉太郎という方。日本映画撮影監督協会名誉会長なんですね。うーむ。
和製ハードボイルドの舞台としてよく引き合いに出される「横浜」。実際の横浜をよく知らない地方在住者としては、こういう雰囲気を求めて舞台設定されるんだろうなという気にされます(笑)。

夜霧の波止場(?)で出会った若い二人は、互いに過去を引きずって現状からの離脱を求める似たもの同士。やがて、少しづつ互いの抱えているものがわかってくる。

さて、問題は台詞の聞き取り。特に若い裕さんの台詞が聞き取れない(笑)。ハッキリいって滑舌悪いです。
他の出演者は訓練された台詞語りをしてるんだなぁ、と改めて気付かされます。
心情を吐露する長台詞を苛立ちながらいわれると…もう何を言ってるのかわからない。
TVのボリュームをいっぱいに上げて、顔を画面にちかづけて10秒巻き戻し!もっかい巻き戻し!(あー、そう言ってんのか)
今までに字幕の無い古い邦画をお薦めした皆さん、ゴメンナサイ。

さて、歌詞を追っていただければ解るのですが、映画の元になった歌の「俺は待ってるぜ」で歌い手の裕さんが待ってるのは、海外へ去った幼馴染の想い人。
日本人が自由に海外へ行けるようになったのは1964年からなので、1957年のこの当時は簡単に追って渡航するわけにはいかないのです。
北原三枝はいつ旅立つのかと思っていたら、違うんですね。この映画で裕さんが待ってるのは、ブラジルに渡ったお兄さんからの便り。
敵役は二谷英明。
クライマックスの格闘の後には、レコードにはない幻の三番の歌詞が流れて物語を締めくくります。

どちらかといえば小品ですが、このコンパクトさもひっくるめて私は好きです。
字幕が無いのは苦しいですけど(笑)。
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