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逢びきのslowのレビュー・感想・評価

逢びき(1945年製作の映画)
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汽車を待つ旅人や常連客で賑わうホーム脇の喫茶店。その店の一席に、神妙な面持ちでお茶を飲む男女の姿があった。2人にとって、その日はきっと大切な日だったのだろう。その意味を知らない私たちは、彼らの時間を遡り、一括りにできない道理というものに溜め息をつくことになる。

邦題から想像できる通り、今で言う不倫を描いた物語。しかし、本作は私たちにその是非を問うているわけではないと思う。
2人にはそれぞれ幸せな家庭があり、大切な家族がある。しかし、あるハプニングをきっかけに、段々と今までの慎ましく平穏な暮らしが、悩ましく平凡な暮らしだと思えてきてしまう罪悪感。幸せだと信じていた日々に、疑問を持ってしまった自分への嫌悪感。燃え上がる一方で葛藤する胸の内を、慎ましく平穏な暮らし、のトーンのまま繊細に描いく素晴らしさ。それは役者の技量が申し分なかったからこそだけど。人の感情が揺れ動く様を丁寧に描いた、これは純愛映画ではないかとさえ思う。
このメルヴィルが撮りそうな映画を、スペクタクル巨編みたいな映画を作るイメージだったデヴィッド・リーンが作っていたことにも驚いた。
最近の作品で言えば、アントン主演の『5時から7時の恋人カンケイ』のあの清涼感と似ているかもしれない。美しいモノクロの映像と、胸に迫る音楽。ラフマニノフはどの映画でも最高の仕事をするから凄い。これは現代の不倫のイメージでは観て欲しくないような傑作。
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