ほーりー

野菊の如き君なりきのほーりーのレビュー・感想・評価

野菊の如き君なりき(1955年製作の映画)
3.7
【木下惠介特集⑦ 丸い輪の世界】

私の家にも古いアルバム写真があって、その中でひいおじいちゃん(嘉永生まれ)の壮年~中年の頃の写真を見ると、丸い縁取りがされている。

この映画はそんな丸い縁取り写真が撮られた時代が舞台の作品。

15歳の少年と2歳年上の従姉との淡く悲しい恋を描く『野菊の如き君なりき』は、伊藤左千夫の名作『野菊の墓』が原作。

笠智衆扮する老人が何十年ぶりに故郷を訪れるところから映画がはじまり、老人が少年時代の思い出を回想しながら物語は進む。

ある意味、正統派すぎるほど正統なストーリーなのだが、そこは木下監督、変化球として回想シーンは前述の通り、丸く白い縁取りがされている。

しかし、個人的な意見を言わせてもらえると、やっぱり邪魔な演出に感じられる。

映像的には楠田浩之の撮影があまりにも素晴らしく、特に主人公・政夫が進学のために村をあとにする雨の渡し場のシーン、そして民子が政夫への愛を秘めたまま他人のところへ嫁ぐ夜の場面など、身震いするほど美しい。

それが四隅が欠けている分、何となく勿体なさを感じる。

話変わって、木下監督が描く母親像は本作でもやはり尊い。

普通なら嫌なキャラで描かれそうだが杉村春子扮する主人公の母は、世間体を気にする反面、息子たちの本心も知っており、その間で葛藤しながらも厳しい決断する役回り。

その杉村の母である浦辺粂子もとても温かみのある役どころだった。

■映画 DATA==========================
監督:木下惠介
脚本:木下惠介
製作:久保光三
音楽:木下忠司
撮影:楠田浩之
公開:1955年11月29日 (日)
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