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インド行きの船のpikaのレビュー・感想・評価

インド行きの船(1947年製作の映画)
4.0
不快でムカつくし若干退屈だなと感じた全てが伏線だったかの如く意図を含み、魅力へと昇華される後半の怒涛の面白さは圧巻!
何気ない会話、台詞ひとつひとつがキャラクターを構築し、「俺をわかってない」という言葉を発端に表面上のアイコン的な印象をことごとくぶち破り、魅力と欠点を併せ持つ人間の多面性が浮かび上がり、絡みに絡まりあった因縁や感情、愛と憎悪などの表裏一体な人間の業を突きつけてくる。

影を使った演出や、部屋の中でのフィックス長回しなどの眼を見張る演出の美しさ、闇夜の街並みや陰鬱とした船内と恋の始まりを暗示させる瑞々しい空や水面の輝きを対比させる緩急まで、画質はクソながらも画面を見ているだけでガツンガツンと感情を揺さぶられる素晴らしさ。

登場人物全員救いようのないクソさで勝手にやってろと思いながら見てたのに、最後には全てのキャラクターの中に自分を見つけてしまうような共感めいた感情が湧き起こり、憎めないどころか愛おしさすら生まれてしまう。
愛と憎しみ、人生の希望と絶望、残酷な時の経過が人の感情を変えることの恐ろしさを丁寧にジックリと描きながら、描かれていない画面外の意図まで染み込んでくる奥深さ。
現在・過去回想・現在と分かれた構成はありきたりなものだけど、単にドラマチックにするための意図ではなく、構成によって観客の感情を誘導させ文字通り「見る目が変わる」という効果を生むことでラストのカタルシスが何倍にも増幅させる演出力は痺れた。
見るたび魅力が増していくような何度も見たい傑作!
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