Mikiyoshi1986

西鶴一代女のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

西鶴一代女(1952年製作の映画)
4.6
5月16日は黒澤や小津と並び、日本映画史にその名を刻む巨匠・溝口健二の生誕119周年記念日に当たります。

17世紀、江戸初期に活躍した浮世草子作家・井原西鶴の「好色一代女」をベースに、
溝口が女の転落人生を冷徹なタッチで描いた「西鶴一代女」は、
まさに彼を名実ともに世界的な映画監督へと押し上げた傑作であります。

黒澤明「羅生門」がヴェネツィア国際映画祭にて金獅子賞を受賞した翌々年の1962年。
溝口の「西鶴一代女」は同映画祭にて国際賞を見事受賞し、その後も「雨月物語」と「山椒大夫」が二年連続で銀獅子賞を受賞するなど、
戦後日本映画の国際水準を決定的なものとしました。

由緒正しい御所勤めの女・お春が娼婦に成り下がるまで過程を、徹底したリアリズムによって描破する溝口。
封建体制かつ男社会に虐げられる女の立場を照らした本作は、
公開当時の未だ根強い男尊女卑の因習をも示唆しています。

お春が生娘から老女になるまでの波瀾万丈な辛酸人生を、圧巻のスタンドプレーで見せつける田中絹代の素晴らしさよ!
一世一代の名演技をこなす女優の入魂、ここにありです。

洗練されたカメラアングル、並びに効果的なカメラワークには毎度ドキッとさせられる。

一方、江戸時代の西鶴より百年以上も後、
17~18世紀のフランスではドゥニ・ディドロ「修道女」やマルキ・ド・サド「ジュスティーヌ」、モーパッサン「女の一生」、フローベール「ボヴァリー夫人」、エミール・ゾラ「居酒屋」などなど、女の転落人生を綴った文学作品が多くの文豪によって発表されています。
それはフランス革命を前後して、市民と貴族との長い階級闘争の中で生まれた抽象的なテーマとも云えます。
(溝口もこれらの文学に大きな影響を受けてる)

そんな文芸の歴史を持つフランスですが、
従来の映画文法に風穴を開けたヌーヴェルヴァーグの精鋭ゴダールやリヴェットは、溝口の作品に強い衝撃を受けて熱烈な支持を寄せていました。
その後リヴェットは自国の19世紀文学を礎にしながらも、「西鶴一代女」を絶対的なモデルとして「修道女」を制作することになるのです。

そして21世紀の現在。
先進国や途上国を含め、ジェンダー社会の在り方は今、一体どこまで進展してきているのでしょうか?
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