映画漬廃人伊波興一

愛の残像の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

愛の残像(2008年製作の映画)
4.5
フィリップ・ガレルの作品を初めて南フランスの小さな映画館で観た時、(物語)の細部まで理解出来なくとも、震える画面に戦(おのの)きました。絶対に日本では公開されないタイプの映画を撮る人に違いない、と思いました。
フィリップ・ガレル『愛の残像』


ニューフレンチアクションの旗手リュック・ベッソンの「レオン」『二キータ』がいまだに根強いファンがいようと、「ベティ・ブルー」のジャン=ジャック・ベネックスや「愛人/ラマン」のジャン=ジャック・アノーの新作を待ち焦がれているファンがいようと一向に構わないのですが、
上記三人の名が挙がる中でフィリップ・ガレルの話題が希薄なのは映画好きとして「もう少し敏感になってもいいんじゃないか?」と言っておきたい気がします。
我らがレオス・カラックス、ジャック・ドワイヨンら(ポスト・ヌーヴェル・ヴァーグ)らには、もう少し量産して欲しいというのがファンの願いですが、それを真摯に受けとめるように一定のペースで発表していながらも2018年現在、全作品の中で未公開作品の方が圧倒的に多い現状は日本配給業務の(買い)のチカラが甘いな、という印象を否めません。
同じミニマリズム世界で80代後半から90年代にかけて、ブラームスを思うがままに悪酔いの素材化させたパトリス・ルコント『髪結いの亭主』『仕立て屋の恋』や叙情が加齢臭を放ったようなルイ・マルの『ダメージ』などで客足が掴めた不可解な時代でしたから『自由、夜』の純度は却って風変わりなアマチュア作品に映ったかもしれません。
久方ぶりにガレル作品『愛の残像』を観るにあたり、ミニアリズムというスタイルが如何に作り手の才能を残酷なまでに露呈するか、ひとつひとつ仕掛けが取り外され精密機器の職人の意匠を見せられるのに等しいか、をまざまざとは感じた次第です。
20歳の頃、欧州を放浪していた事があります。南フランスの小さな街の映画館で初めてフィリップ・ガレルの映画を観ました。勿論、字幕ナシだから(物語)自体の細部まではさすがに理解出来ません。
ですが震える画面に妙に戦(おのの)きを禁じ得ませんでした。直感で日本では絶対に公開されないだろうな、と思いました。
Les hautes solitudesという タイトルの作品。
(孤高)だそうです。