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マンハッタンのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

マンハッタン(1979年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

マンハッタンのレストランで、いつものように会話に花を咲かせるTVライターのアイザックと親友の学校教師イェール。アイザックは42歳だが、17歳の学生トレーシーと同棲中だ。彼には2度の離婚歴があり、2番目の妻ジルが彼との生活を暴露した小説を書こうとしていることに頭を悩ませていた…。

ウディ・アレンの映画は面倒臭い。
話は別にどうってことないラブコメが多いのだが、とにかくセリフが異様に多い。
「まるで〇〇じゃないか」という会話中の比喩は文化や芸術の知識が必要とされる。
しかし、もはや専売特許のその面倒臭さは、見ていてなぜか不快にはならない。
ただただ笑えるし、妙に泣ける。
そんなウディ・アレンの間違いなく代表作。
虚栄心が強い都会人の節操のない恋愛模様を、シャープで美しいモノクロ映像でつづったラブコメの秀作である。

ウディ・アレン演じる主人公アイザックはいつもイライラと神経質で自意識過剰で、ロリコンで自己中。
ついでに言えば醜男でチビでハゲ。

文に起こすと最低な人物だが、アレンがあのトボけた顔で、博識を活かした洒落た会話を次々に繰り出すものだから、「コイツも生き方が下手だけど、必死に生きているんだな…」と、なぜか上から目線で同情してしまう。
誰からも憎まれない、何とも得なキャラクターである。

しかも、離婚歴が2回あり、(アイザックに呆れ果てて男に失望してレズビアンに走ったというのが笑える)2番目の妻との子どもの養育費を払わなければならないのに、嫌気がさして仕事を辞め、突然作家を目指す。
金が無いはずなのに美術館やレストランにパーティーとアイザックは洒落た生活を変えようとしない。
親子以上の歳の差がある17歳の女の子と付き合い、家賃が払えないとアパートを引っ越していく。
理想ばかりを追う、なかなかイケイケな生き方で、いろいろと失敗する様が情けなくて笑えるのだ。

一方、アイザックの親友・イェールは結婚して12年になる妻がいるが、他の女性と浮気をしている。
学校の教師なのだが、日本とは違い、仕事の信用と個人のプライベートは切り離されて考えられているようだが、浮気相手の雑誌記者メリーとデパートでイチャイチャする姿はだらしない女好きそのもの。
だが、妻も愛していて離婚できないとメリーに心から正直に語る、純粋無垢なスケベ野郎で憎めない。(女性から見れば最低だが)

アイザックはイェールの浮気相手である雑誌記者メリーを紹介されるが、自分の好きな映画や芸術を散々貶され、第一印象は最悪だった。
ある夜、偶然に夜のマンハッタンで出会った彼らはメリーの犬の散歩がてら、一晩中語り合い意気投合する。

なんて事はない。
他人に文句をつけてストレス発散する自意識過剰な似た者同士が惹かれあっただけである。

そしてアイザックはメリーに愛を感じはじめた頃、メリーとイェールの関係がうまくいっていないことを知り、年相応の恋愛が良いのではと、若いトレーシーの純情な愛に一方的に別れを告げ、彼女にロンドン留学の話を勧めた。

イェールとメリーの関係が破局に終わったことを知ると、メリーと同棲生活を始める。
ところが、「いまでもイェールを忘れられない」とメリーから告白され、しかも隠れてイェールと逢っていることを知って、アイザックはショックを受ける。

大学で講義中の教室に押し掛けて、イェールを非難するが、それはトレイシーをフった自分も同じこと。
孤独を感じ、小説の執筆に身が入らないアイザックは自分勝手な都合で捨てたトレイシーのもとへ息を切らしながら走ってゆく。

このラストの場面が秀逸だ。
アイザックがトレイシーのアパートに着いた時、彼女はロンドン留学へ旅立つ直前。
どこまでも身勝手なアイザックは、寂しいから行くなと、彼女を引き留めようとする。
対するトレイシーは「離れていても愛してるわ」と、親子以上に歳が離れているアイザックよりも大人な態度で諭す。
それでもみっともなく引き下がらないアイザックに対してトレイシーが「少しは人間を信用して…」と呟く最後の一言がガツンと響く。
非常に痛快なエンディングだ。

年齢だけ重ねたような愚かな大人たちの中で、17歳のトレイシーだけが、冷静で人間的に成熟している。
「大いなる幻影」や「忠臣蔵」を好んで見るほどの渋い趣味。
大都会NYで文化芸術から本物の価値を学び取り、大都会の喧騒の中から人生の機微をとらえるのことのできるトレイシーは、大人たちの愚かさを静観できる、ある意味で悟りを開いた少女だ。
「高潔」という言葉が良く似合う。

NYに住む大人たちは、表面的には洗練されたライフスタイルを楽しんではいるが、内面は不完全な人間で、利口だとは言い難い。
理想と屁理屈ばかりを語る彼らの姿は滑稽で、妙なリアリティがある。
見栄を張って都会に出て(遊びに行って)夢ばかりを追って背伸びしていた若い頃に、「何だか近い経験をしたなぁ…」と、誰もが共感してしまうのだ。

正直に、真面目に、誠実に生きることが人間の「徳」になるのだ、と若いトレイシーから教えられる。
虚栄心に囚われてはいけないという普遍的な教訓のある作品だ。
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