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ニジンスキーのTOTのレビュー・感想・評価

ニジンスキー(1979年製作の映画)
3.6
ハーバート・ロス監督のニジンスキー伝記映画、そしてジェレミー・アイアンズの映画デビュー作。
バレエ・リュスでのニジンスキーとディアギレフの蜜月がやがて憎しみと狂気に変わるまで。

『シェヘラザード』『薔薇の精』『ペトリューシュカ』『遊戯』『牧神の午後』『韃靼人の踊り』など著名なバレエ・リュス作品のワンシーンが再現されていて楽しい。(『青鬼』の衣装合わせシーンも)
ストラヴィンスキーの曲がドラマチックに物語を盛り上げている。

ニジンスキー演じるジョルジュ・デ・ラ・ペーニャは撮影当時現役のソリストで、実際より線は細いが中性的な雰囲気は通じるものが。
『牧神の午後』の恍惚とした表情は見事で、終幕前の自慰シーンも知識としては知っていても見ると鮮烈。
アラン・ベイツのディアギレフもよく似ていて、控え目ながらニジンスキーとの同性愛を明示する場面もあり、ディアギレフの複雑かつ強烈な個性がしっかりわかる。
振付師のミハイル・フォーキンを今作が映画デビューであるジェレミー・アイアンズが演じているが、きらきらしい美しさで大変良いです。
バレエ・リュス着任の日にディアギレフに挨拶して手をにぎにぎされて引き笑いしてるのがかわいい。

狂気のニジンスキーがディアギレフへ書いた手紙で終わるラストは胸が痛む。
ストラヴィンスキー『火の鳥』が流れる色とりどりのエーテルが舞うようなエンドロールは、ニジンスキーが踊っているようにも見える。

ニジンスキーがディアギレフとの愛憎メロドラマによって精神の混迷を深めていく表現は少し典型的すぎる気もし、最後の舞踏や精神病院での後半生は描かれていない物足りなさもある。
でも、数々のレパートリー作品と元ダンサーのハーバート・ロス監督ならではの躍動感あるバレエシーンは素晴らしいので、ニジンスキーを知る一端としても是非国内DVD化してほしい。
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