スーザファット

ディープエンド・オブ・オーシャンのスーザファットのネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

もう、しんどかった…

物語に出てくる家族と自分の家族構成が同じだったから色々と思い出してしまった。
自分は真ん中だけど、ビンセントの気持ちが痛いほど伝わってきちゃってもう無理。

誘拐を犯した人が諸悪の根源だし許せない行動だけど、それが判明した上でもどこに気持ちの落とし所をつけたらいいのか分からず、ずっと答えを出せないまま見守ることしか出来なかった。
家族を家族たらしめる本質は血縁か、共有した時間か、お互いを思いやる心か。自分が両親だったら、兄弟だったら、息子として迎え入れた父親だったら…
理解し合うことはできただろうか。寄り添うことはできただろうか。
この結末の先それぞれに希望の光が射す道筋が続くことを願わずにはいられない。

ビンセントについて、我慢できずに込み上げるシーンがいくつもあった。
ビンセントはいつも愛に飢えていた。冒頭から弟の面倒を任され自分がしたいことや意見については常に我慢を強いられていた。誘拐が起きてしまって、ベスが弱っていくなかで妹をあやした後に花瓶を落として割るシーン。家族の力になる一方で自分のことも見てほしい、気にかけてほしいという意識が描かれているようで胸が締めつけられた。
両親が言い合いになって離婚という言葉を聞いたビンセントは妹を無理やり泣かせて気を引いた。本当に家族を壊したくないんだと思った。それは弟の帰る場所を守りたかったのか両親に離れてほしくないと願ったのか、真意は分からないけど、ビンセントが一番この家族を家族として愛しているように感じた。
それは大きくなってからも。
ベンが見つかり、また一緒に暮らすことになって初めて眠るときにこっそり昔ベンが持ってたうさぎのぬいぐるみを置いてそのまま同じ部屋に寝てしまうシーン。
ずっとうさぎを持っていたのもそうだし、その行為がどうしていいか分からないなりでも根底にベンへの思いを感じて堪らなかった。大好きなシーン。
年頃のやんちゃをしながら両親に対して諦念の感情すら抱いていて、ベンに対しても帰ってきて欲しくない思いと弟を迎え入れたい思いと、色々な感情が混ざり合って自分のことを卑下してしまったり反発したり。あの頃ちゃんと見てもらえてたら。
大人達が発するビンセントの印象はどれも見当違いだった。誰もがビンセントを真っ直ぐ見れていなかったのに、簡単なことを言わないで欲しかった。
だから収監されてベスと面会する会話でベスは「許してね」と言ってそれをビンセントが受け入れたシーンには納得ができなくて、台詞を聴いて訳し直したら「私はあなたの面倒を見ることができてなかった、本当にごめんね」だった。こっちの方が腑に落ちる。
許してねなんて簡単な言葉、納得ができるわけがない。罪深い字幕。
ラストの振り絞ったように出したベンへの謝罪には涙が止まらなかった。それを一蹴してくれるベンに救われる。兄弟ってそういうもんだよね。時間の溝を一瞬で埋める兄弟の絆みたいなものをそこに見れてたまらない気持ちになった。

一方で両親にはあまり共感できず、何ならずっと不服だったし憤りを感じてた。
そりゃ不幸な出来事が降り掛かって容易には想像できない大変な状況だっただろうけど。
特に父親の方は家族に対してこうあるべきだ、こうであってほしいという虚像ばかり押し付けて一人一人の本質に寄り添おうとしない。当時と今の価値観の違いもあるかもしれないけど、本当に無理だった。
おれはどうすりゃいいじゃねえよ考えろ馬鹿。
ベスも写真家で芸術肌だからかあまり家族をまとめるお母ちゃんが上手じゃなくて、ベンを失ってからも見つかってからも色々と間違えてた印象。
他の子供がいる前で、あの子がいなかったらどうしたらいいのなんて言っちゃだめだよ…
でも戻って来たベンに母さんじゃなくベスと呼ばれ、憎むべき諸悪が母さんと呼ばれている事実には同情せずにはいられなかった。母親って父親と違って本当に自分が苦しんで産んだ分身のようなものだと思うから、辛かっただろうな…
どれだけパットと意見が食い違って言い争っても、愛してほしいっていうのは何となく分かるな…ベスにはパットのバイタリティが必要だと思うし、味方でいてくれる人は誰しもが必要な存在だもんね。
良い所も悪い所もひっくるめてお互いに手を取る。夫婦って難しいね。
できれば物語のその先に、カラスさんをたまに家に迎え入れてほしいという思いがある。最後にサムとどう話し合ったのか、どれだけの想いを断ち切っての判断をしたのか想像し難いけど、それは紛れもないサムへの愛情からしか選択できないものだから。
そういう形があっても良いと思う。そうであってほしい。


どれだけ添削してもめっちゃ長くなってしまった。それだけ食らってしまった。
この作品を教えてくれた人はビンセントと同じ立ち位置だったそうで、それだけで相当食らっただろうなと改めて今思う。
その人は話の節々から弟達や家族への愛が見て取れて、本人には言わないけど尊敬してるのでビンセントもそうなっていて欲しいな。
そんな人がたくさん愛される世界であってほしい。

何はともあれ色々な事を考えさせてくれた作品でした😌

誘拐、だめ、絶対。