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エル・スールのmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
4.0
「ミツバチのささやき」のビクトル・エリセ監督が、前作から10年後に発表した長篇2作目。
原作はアデライダ・ガルシア・モラレスの同名短編小説。
当初、上映時間は3時間の予定だったが、プロデューサーが後半部90分の上映を許さなかったため、95分の映画となったとのこと。
撮影はホセ・ルイス・アルカイネ。
原題:(西) El sur、(英) The South (1983)

1957年秋、朝目覚めた15歳の少女エストレリャは、枕の下に父が愛用していた"霊力のふりこ"が置かれているのを見つけ、父は今度は帰って来ないと予感する。
そして、少女は過去を回想し、物語は、8歳の頃一家が、“かもめの家”と呼ばれる郊外の一軒家に住むことになった時代に遡る…。
冬の雪の日、南(El surエル・スール)では雪は降らないと母に教えられ、エストレリャは南に想いをはせる。
父は祖父と大喧嘩して南から出てきたと母は言う。
やがて、エストレリャは父がイレーネ・リオスという女優を想っていたことを知る…。

~登場人物~
①主人公の少女エストレーリャの家族
・8歳のエストレーリャ(ソンソーレス・アラングレン)
・15歳のエストレーリャ(イシアル・ボリャイン)
・父、アグスティン・アレーナス(オメロ・アントヌッティ):医師
・母、フリア(ローラ・カルドナ):かつて教師だったが、内戦後に教職を追われる。
・家政婦、カシルダ(マリア・カーロ)

②その他
・父の乳母、ミラグロス(ラファエラ・アパリシオ):南から、祖母とともに初聖体拝受式にやってくる。
・祖母=父の母/ロサリオ夫人(ヘルマイネ・モンテーロ)
・女優イレーネ・リオス/ラウラ(オーロール・クレマン)
・俳優/イレーネ・リオスの共演者(フランシスコ・メリーノ)
・グランドホテルのバーテンダー(ホセ・ビボ)

・沈黙に沈黙で答える。
・映画「日陰の花」
・塀の落書き
・グランド・ホテルでのランチ
・「エン・エル・ムンド」でパソ・ドブレ(ダンス)。
・ラウラへの手紙とラウラからの手紙
・長距離電話の領収書

「幸せ?幸せなんて知らない」

「時間とは容赦のないものですね。
…年を取っても、今でも、夜が恐くなります」

この映画は、スペイン北部で暮らす15歳の少女が父との思い出を回想する物語です。
幼い頃は大好きな父のことは全部分かっているつもりだったのですが、やがて、一度も南(El surエル・スール)の話をせず、南に行こうともしなかった父の秘密に気づきます。
そして、15歳になって、少女は気になっていた女性について思いきって質問しますが…。

ラストは初めて南を知ることになる後半部へ繋がっていくはずだったのでしょうが、余韻を深めることで作品としては完成されている。

政治体制をめぐる父と祖父の対立、心を残した恋人との別れ、影を引きずる父と母との関係など、過去のスペイン内戦時代とフランコ政権下の傷痕が、最低限の音と、光と影を巧みに使った美しい映像の中に詩的に描かれている。
(この作品は、一作目と違い、フランコ独裁政権崩壊後の作品)。
ホセ・ルイス・アルカイネ撮影による映像の美しさは「ミツバチのささやき」を凌ぐ。
まさにエリセ監督は"映像の詩人"。

~(参考)歴史的背景~
1936年スペイン内線が勃発。
3年に及ぶ内戦は、ナチス・ドイツとイタリアの支援を受けたフランシスコ・フランコ将軍が率いる反乱軍が、ソビエト連邦の支援を受けた共和国政府を打倒して終結。
1939.4.1~1975.11.22(スペイン内戦終結~フランシスコ・フランコの死去)の36年間はフランコ独裁時代(ファシズム時代)。
フランコ総統の死後、フアン・カルロス国王が即位(王政復古)し、1978年憲法制定により民主化が進む…。
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