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エル・スールのtorumanのレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
4.4
31年ぶりの長編新作『瞳をとじて』が公開になるビクトル・エリセ監督作。
何十年ぶりのスクリーン鑑賞です。

真っ暗な画面から.次第に光の挿し込む窓、寝ている女の子エストレリャ、壁紙、太陽の光がゆっくりと映し出される息を呑む映像。
一幕毎に繰り返される光と影の表現。
レンブラントの宗教画のようです。

定点の映像から浮かんでは消える登場人物。
時間の経過と生活の限定を感じる秀逸な表現です。
エストレリャの父親が、南(エル・スール)から北の"かもめの家"に落ちのびた限定された生活と、そこでのエストレリャの成長。
これが作品のテーマになっています。

8歳の頃は、何も分からず神格化していた父から、15歳には何となく分かる等身大の父へ…
寂しさと悲しみ。

煩わしいもの、愛しいもの、娘に見せたく無いものは、南(エル・スール)に置いて行った父。
ある悲劇から、"かもめの家"を出て南に向かうエストレリャ。
大人への一歩を感じさせます。

家から出ると、ずぅと続く並木道
早く大人になりたかったエストレリャが8歳の私から15歳に変わる素晴らしいシーンがあります。
彼女はまた並木道を通ってさらに成長して戻ってくるのでしょう。

本来は南の地の第二章が描かれる予定でしたが、最後まで描かれない事で、より余韻の漂うラストになっています。

前作の『ミツバチのささやき』と比較すると、ストーリーの骨格が明確な為、分かりやすい内容になっています。
しかしその反面、薄ぼんやりした余白から醸し出される神秘的な魅力は薄れています。

そこをどう感じるかは好みの問題。
どちらも素晴らしい作品である事は間違いありません。

最新作はどんな仕上がりなのか、いまから楽しみです。
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