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ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵(パブリック・エネミー)No.1と呼ばれた男 Part 2 ルージュ編のericoのレビュー・感想・評価

3.3
マチュー祭はまだまだ続きまチュー(ごめんなさい、一度言ってみたくて…)この長くダサいタイトル、マチューが出てなきゃ絶対手に取ってない。しかも2部作で出てくるの2からかよ…でも禁じ手の「2から見る」は我慢して(図らずも007でやってしまったけど)、真面目に1から鑑賞。これ、2は続編ではなく純粋な前後編なので、それで正解でしたが。

いやはや、意外なほど楽しめました。普段は筋肉質だけど細身のヴァンサン・カッセルが、どんどんビール腹の目立つだらしない体型に変貌していくとともに、傲岸不遜な態度も憎たらしいほどになっていく。で、ここがポイントだと思うのだけれど、この映画の主人公は機転は利き情にも厚い、嫌いにはなれない人間ではあるものの、絶望的に薄っぺらいのだ。フレンチギャングの頂点を極めた男とはとても思えないほど。

Part2で彼は痛烈な批判を受けるが、それが彼の真理を言い当てたものなのだと思う。彼は「金があるところから金を取るのが道理だろう、だから銀行強盗をする。資本主義への抵抗だ」と主張するが、結局その金は女の宝石やドレス、一時の快楽に消え、やがて再び銀行へと帰っていく。実は一番、資本主義を体現したのがジャック・メスリーヌという犯罪者だ、と断罪されるのだ。彼は、打ち倒そうとした体制のまさにその中で、主義も思想もなく回るコマに過ぎない(この表現も、彼の強盗・脱獄の相棒から浴びせられる)。
そもそも彼がこの稼業に手を染めた遠因として、アルジェリア戦争での軍隊経験が冒頭で示唆されている。そういうフランスという社会の闇のなかで運命を弄ばれたようにも見える、この小さな大強盗の虚しさを描くシニカルな視点は、とてもフランス的だなと思える。

上の通り、Part1とPart2で一つの映画ではあるけれど、Part2で少々失速感はあったかな。

そして肝心のマチュー・アマルリック、神経質で暗くて、ヴァンサン・カッセルが迂闊しまくるのを隣で「ハァァ!?怒」って顔するのが大変良かったです…
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