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東京湾/左ききの狙撃者 東京湾のmingoのレビュー・感想・評価

4.4
まずオープニングの、屋上に人が配置されたカットを繋いで魅せるカメラワークに痺れた。その後もダッシン「裸の街」を彷彿とさせるセミドキュメンタリーな絵作りに芥川也寸志の音楽がマッチ、役者が雑踏の中に自然に溶け込んで物語の臨場感に鑑賞者も没入していく。
新文芸坐2016年のサスペンス特集で見逃してた本作やっと観れたがとんでもなく面白かった。絶対に観に行った方がいい。黒シリーズをはじめ邦画サスペンスを支え続けた名脇役西村晃の目ん玉品抜いた魂の演技が炸裂している。人によっては傑作ではないとか言いそうだが、全く予想だにしない憎しみの行方は見たことがないラストを迎える。いやー傑作でしょう!!

麻薬取締官が殺され左利きのスナイパーを探すことになりそれがまさかの戦友でというストーリーなのだが、浅草松屋をはじめ鮮明に活写された東京の街並みを楽しみつつ高度経済成長から取り残された小汚い下町での聞き込み、戦争の影を引きずった2人の男の絆の行方、緊迫した逃走劇と夫を待つ妻の切なさが交差し、そして終盤の列車の中での取っ組み合いは誰も予想だにしないラストに集束する。

先日蓮實重彦特集で観たフラー「拾った女」の主人公ウィドマークが住んでたボート小屋と瓜二つのそれは映画のモチーフとしても当然素晴らしいし、ものを覚えられない阿呆だが笑顔が眩しい妻が住む対比の舞台装置としても機能している。脚本松山善三は先日観た「千曲川絶唱」や千葉泰樹「沈丁花」などありきたりな物語の中にとんでもなくいかれたことを平然と書いてくるイメージなのだが、まさに本作もやんややんや論ぜられるラストを持ってきたなという印象。また監督の野村芳太郎は登場人物の心理が明解にわかるような演出で話を進めていくのが特徴だが、撮影描写は徹底してドライだからハマったときはとんでもなく面白いサスペンス映画を撮るイメージ。ラストの2人が手錠で繋がれた後の描写は思い出しても震えるくらい怖いし、サスペンス映画としての面白さもさることながら脱力感は相当なもの。「隠れた」とか「知られざる」とか常套句が申し訳ないくらいには傑作!
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