櫻イミト

小犬をつれた貴婦人の櫻イミトのレビュー・感想・評価

小犬をつれた貴婦人(1959年製作の映画)
3.0
ロシアを代表する劇作家チェ-ホフの生誕百年記念として有名な短編小説を映画化。撮影は「イワン雷帝」(1946)のアンドレイ・モスクヴィン。主演は「鶴は翔んでゆく」(1957)で帰らぬ夫を演じたアレクセイ・バターロフ。日本では1965年にATG配給で公開。

1900年初頭、ウクライナ地方の黒海に面した避暑地ヤルタ。モスクワから来ていた初老の銀行員グーロフは白い子犬を連れた貴婦人に目を止める。軽い気持ちで声をかけて仲良くなり、互いに伴侶がいると知りながらも一夜を共にする。そして何もなかったことにしようとそれぞれの家庭に帰っていったのだが、その後グーロフの心の中では彼女の存在が日増しに大きくなるのだった。。。

離婚が許されない時代を舞台にした王道かつシンプルなメロドラマ。恋愛の機微が繊細に美しく描かれている。ヒロインが薄幸な美人で適役だった。最後は含みをもった終幕となり余韻を残す作り。ヤルタはチェーホフが住んでいた避暑地とのこと、映画でもあまり観ない風景で旅情も感じられた。ただ昨今の、最後に白黒はっきりさせるメロドラマを見慣れていると物足りなく感じるかも。

現在手に入るDVDの画質が悪く戦前の作品を観ているかのよう。その古めかしさは内容と合ってはいるものの、もしもリストア版が作られ鑑賞出来たら印象は大きく変わりそう。

今日のニュースでロシアがウクライナに小型核使用を検討と報じていた。戦争を頭によぎらせながら鑑賞したので、なおさら人生のはかなさを感じた。

■1960年カンヌ映画祭
パルムドール:「甘い生活」フェリーニ
審査員賞  :「情事」アントニオーニ
「鍵」市川崑
最優秀参加賞:「小犬を連れた貴婦人」ヘイフイツ
「誓いの休暇」ヘイフイツ
受賞外 :「処女の泉」ベルイマン

※ニキータ・ミハルコフ監督、マルチェロ・マストロヤンニ主演の「黒い瞳」(1987)は
本作のリメイク
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