彦次郎

素晴らしき日曜日の彦次郎のレビュー・感想・評価

素晴らしき日曜日(1947年製作の映画)
3.5
日曜日の逢瀬を重ねる男女(雄造と昌子)が貧しさゆえに陰鬱な状況に追い込まれていくも希望を見出していくドラマ。
貧しさゆえと書きましたが時は第二次世界大戦敗戦間もない日本。国民全体が貧乏だった頃なので雄造と昌子のようなカップルは多かったのではないでしょうか。もう少し具体的に記すと2人の所持金は35円、インフレ率の激しい頃で(1947年2月16日とありますが実質1946年頃の金銭感覚でいうと)恐らく100~150倍くらいのようです。現在(2023年5月記載)の感覚でいうと2人合わせて所持金が3500円~5000円ところでしょう。
本作は当時の若者カップルのドキュメンタリー的にデートを描いていきます。持ち金の多い女性が住宅展示場を観に誘導するのは世の常ですが男の側が臆するのもまた世の常。その次も賃貸の方でも劣悪環境と吹き込む管理人によりデートは出だしから不穏です。雄造が自前のカフェを持つのが夢でしたが戦争で破綻し肉親も喪うということから自暴自棄になっていることもありデートにしてはお通夜モードになっています。
この雄造という男、気晴らしに子どもと野球すると饅頭屋の弁償させられる優しさ・不運さ、出世した友人を訪ねると乞食に間違えられて金を渡されるも突き返す潔癖さ・衝動性、コンサートに行くもダフ行為をする愚連隊に喧嘩を売る義憤・暴力性、カフェに行ったら勘定が足りないという見通しの悪さ…等戦争が無くても金には縁遠そうものを感じてしまいます。
対する昌子の方は無償でおにぎりを分け与えたり雄造を常に励ます優しさですが、肉体関係を迫られると逃げたり(また戻ってくるけど)するガードの固さも持ち合わせておりました。
『素晴らしい』というのが皮肉のような散々なデートですが最終的には2人が希望を持って笑顔を取り戻していくところは爽やかさでタイトルを回収しており後味が良かったです。
黒澤監督は本作を失敗作とみなしていたようですが毎日映画コンクールでは監督賞を受賞し世間でも好評だったようです。個人的にも過剰にドラマティックでないところが面白かったです。これから暗転していくであろう日本において将来、氷河期世代老カップル版『素晴らしき日曜日』が制作されるのではなかろうかと妄想してしまいました。
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