NAOKI

パブリック・エネミーズのNAOKIのレビュー・感想・評価

パブリック・エネミーズ(2009年製作の映画)
3.7
友達はおれのことを「ジョン」と呼ぶ…
お前らは「ミスター・デリンジャー」と呼べ…

「先輩はデリンジャーって知ってます?」
ケンリュウは顔を赤くして酒をこぼしながら聞いてきた。

「おう、アメリカの昔のギャングだろ?映画は二本知ってるぞ、ウォーレン・ウォーツのやつとジョニー・デップのやつ…」
「さすが…先輩は知っとると思った…ジョニー・デップの方…」
「『パブリック・エネミーズ』だな」
「おれ…あれが好きでこないだ真似したんすよ…『友達はおれのことをケンって呼ぶ…でもお前らは○○さんって呼べ』って…」
ケンリュウは「かっこいいっしょ」と言ってひゃはははと笑った。

ケンリュウと知り合ったのは彼が暴走族を引退した頃で、「更正」の名の元におれのいた会社に入ってきておれの部下になった。やんちゃなやつではあったが仕事は真面目だったし、まったくタイプの違うおれになぜかやたらとなついてきて、おれもこいつをを可愛がった…町でごろつきとケンカして逮捕され警察まで身柄引き受けに行ったことなんかもある…

しかし、ケンリュウみたいな男に社会はずいぶん生きにくいところだったようで…
「更正」は2~3年しかもたなかった…

はっきり確かめたことはないが、現在は「反社会的勢力」の組織に属しているはずだ…
でも忘れた頃に連絡してきて、たまにこうして二人で飲む…その時はあくまでも先輩後輩の関係でケンリュウはあくまでもおれを先輩としてたてるし、別に隠してるわけではないが、おれも彼の仕事についてはあまり触れないようにしている。

「お前も映画なんか観るんだ?」
「好きっすよ…若いのに映画借りてこいって言うと気ぃ使ってヤクザ映画とかギャング映画ばっかり…でもデリンジャーは面白かったっす。」

マイケル・マンのこの「パブリック・エネミーズ」でデリンジャーを演じるジョニー・デップ…最近はあの海賊やら…やたらとファンキーな役どころが目立つけど、この映画の彼は男のおれから見ても美しい。着てる服ひとつとってもカッコよい。そして…なんだかひどく哀しく見える。

ギャング映画としては実話のせいか…なにかダラダラ続く印象があるのだが、じわじわと破滅が近づいて来るような感じもあって…おれはなんか観いってしまうんですよね…

この時代のギャングも警察も街並みもファッションも…なにかひたすら「滅びの美学」のように見えてくる。
テレビのニュースなんか見てると最近のヤクザなんか普通のサラリーマンより大変そうだ…「パッと男を散らす」ような時代ではないのだ。

「もう小学生っすよ」
スマホの子供の写真を見せながらケンリュウはまた、ひゃはははと笑った。

別れ際…
「先輩はおれのことをずっと『ケン』って呼んでくださいよ」

映画好きの極道…
極道が好きな映画…

タクシーに乗せたケンリュウはちょっと暗い目をしてる気がしたなぁ…おれはふとそんなことを思った。
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