NAOKI

BROTHERのNAOKIのレビュー・感想・評価

BROTHER(2000年製作の映画)
3.7
黒塗りのベンツはいつものように家の前で待っていた。
山下は車に乗り込むと運転席のリョウジに言った。
「事務所まで頼む」
「はい」
リョウジは車を出した。
山下はいわゆる反社会的組織の一員だったが最近はそんな毎日に何かしら空しさも覚えていた。
組のトップは幹部も含めてあらかた引っ張られて服役中だ…
警察はここぞとばかり反社会勢力の壊滅に動き出し、多くの仲間が足を洗って組を抜けた…
もっとも堅気への再就職に苦しんではいるようだが…

「音楽でもかけますか?」
リョウジが聞く…
「ああ、頼む」
車内に軽快なジャズが流れはじめる。
若い頃から趣味らしい趣味もなく、音楽を聴くことなどもなかった。
最近…聞き始めジャズがお気に入りだ。
極道には歳をとってからそういった趣味に走る人間がよくいる。
カラオケにはまって自宅にミラーボール付きのステージを作ってしまった人や、古美術や骨董にはまって財産つぎ込んでのめり込んだ人を…山下は知っていた…

「リョウジ…これは誰のなんという曲だ?」
リョウジはモニターを読んだ…
「えーと、フレディ・レッドの『Who killed Cock Robin』ですね…」
「フー・キルド・コック・ロビン?誰がコック・ロビンを殺したか?なかなか物騒な曲なんだな…」
「はい…」

いかにもフランスの暗黒街の映画に出てくるクラブでかかっていそうな楽曲だ…コック・ロビン…誰なんだろうな?暗黒街のボスかなにかか?そいつが暗殺されたような曲なのかな?
山下はその軽快なジャズに何かしら闇を感じて…事務所までのつかの間…車内でのジャズと妄想を楽しんだ。

車を降り際に山下はリョウジに言った。
「リョウジ…暇なときでいい…コック・ロビンについて調べて…今度教えてくれ」
「はい…わかりました」


皆さんは反社会勢力…ヤクザやギャング…好きですか?
「おれがそうだよ!」
って人もいるかもしれませんが…大抵一般の方々はなるべく関わらないようにしたいもんだと思っているでしょう?

おれだってそうです…現実には関わりたくないし、憧れてる訳でもありません。

なのに洋邦問わずヤクザ/ギャング映画は作られ続け…みんな喜んで観てるわけです…なぜか?

「映画はメタファー」という典型ですね。例えばゾンビ映画が格差社会のメタファーであるようにギャング映画も人の営みのメタファーになっているからでしょう。
「ゴッド・ファーザー」はシシリーからの移民一家を描きながらもアメリカ社会そのままの縮図になっていたし、「仁義なき戦い」は戦後の日本の政治闘争を模していると言われます。
今、まさに日産で起こってるゴーン騒ぎなんてまさに日仏対立の構図をそのままにヤクザ映画が作れそう…
「ファッキン・ジャップくらい分かるよ!ばかやろう!」
…というわけです。

人は地味な慎ましい自分の生活を派手でアクションに満ちたギャング映画に重ねて楽しんでいるのでしょう。

この「BROTHER」の前だったか後だったか…
「もう、ギャング映画は作らない」
…とたけしが宣言したことがありました…
たけしの「暴力映画」のファンであるおれは大いに落胆しましたが…その後「アウトレイジ」三部作を完成させてくれました。
この「BROTHER」はその原点とも思える映画です。

日本に居場所がなくなったヤクザが渡米して結局同じ暴力の連鎖を続けていく…

ロスの打ち捨てられたようなビルの屋上から飛ばす紙ヒコーキのシーンが大好きでした…


「リョウジ!起きなくていいの?遅刻してない?」
茶髪で素っ裸のリコが熟睡しているリョウジのブランケットを引き剥がす…

「うるせえな…山下さんが逮捕されたから…もうしばらく迎えはないんだよ…昨夜は遅かったんだ…寝かせてくれ」
「怪しいね…よーしスマホチェーック!」
「やめろよ…人の携帯…」
「怪しいラインは…ないみたいね…ようし検索履歴チェーック!これなに?『コック・ロビン』?」
「あぁ、山下さんに調べとけって言われたんだった…もう、いいんだよ…逮捕されたし」
「誰がコック・ロビンを殺したか?…」
「え?リコ…知ってんの?」
「コック・ロビンはコマドリのことだよ」
「コマドリ?コマドリ姉妹の?!」
「マザーグースの一節だよ…『誰がコマドリを殺したか?』って」
「まざーぐーす?」
「ねぇねぇ…なんでヤクザがマザーグースのことなんか調べてんの?」

「知らねぇよ」
NAOKI

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