三樹夫

仇討の三樹夫のレビュー・感想・評価

仇討(1964年製作の映画)
4.1
監督今井正、脚本はしし、主演ヨロキン(当時は中村錦之助)、制作東映の武家社会なんて碌でもない時代劇。武家社会なんて碌でもないと思っている今井正とはししが組んでヨロキンがひたすら酷い目に遭うが、ヨロキンの役もそんなに良い奴でもないので、侍なんて一人残らず碌でもない感が漂う。そこで際立つのが話の分かる生臭坊主で、この生臭坊主は劇中唯一武家社会から外れたところにおり、観ててヨロキンは坊主になってずっとこの寺にいた方がいいんじゃねとしかならないので、武家社会に対するアンチテーゼ的なキャラとして存在している。
ヨロキンの兄役で田村高廣、ヨロキンの許嫁が三田佳子、神山繁、丹波哲郎、石立鉄男の三兄弟という豪華なのか変なのか判別のつかない配役。

話はどうやら仇討ちが始まるらしいという所からスタートし、なぜ仇討ちに至ったかが描かれていく。もちろん武家社会なんて碌でもない映画なので、仇討ちに至るまでも碌でもない。イキった奴(神山繁)がヨロキンに因縁付けてきて口論になり、イキりマンは果たし状を送り付けてくるがヨロキンが勝利。私闘厳禁の掟があったので、二人の乱心(気が狂った)ということで決着をつけられ、ヨロキンは寺へ預けられる。しかしイキりマンの弟が丹波哲郎のため案の定いらんことしてきて、さらに話がえらい方向へ向かい、最終的に仇討ちへと至り、仇討ち自体も勿論碌でもない内容で、武家社会なんて碌でもない以外の感想が出てこないこの世の終わりみたいなエンドを迎える。ただ後半が若干失速している。武家社会の理不尽さを描きながらも。ヨロキンが理不尽な目に遭い追い込まれていると面白いというサディスティックな面がある。

お家制度だったり封建的な制度だったりの制度自体の問題もあるが、その制度の中で調子こく嫌な野郎が出てくる。イキりマン神山繁も丹波哲郎も酷いっちゃ酷いが、何気に一番のクズは目付配下のおっさん。上の者にはペコペコして下の者には偉そうに振る舞う典型的なクズ。明らかにそういった演出がつけられているため、このおっさんからは観ていてボディーブローのように嫌な感じを受ける。仇討ちを観るのに良い場所を勝手にとって金取ろうとする奴が出てきたり、ここら辺は『地獄の英雄』を思い出した。とにかく大小兼ね備えた嫌な連中が出てくる。
最初からヨロキンが歯向かわずペコペコしてればバッドエンド回避だったと思うが、ただしそういうのって封建制度への消極的な加担でもある。調子こいた奴はずっと調子こいたままってことにもなるし。どっちに転んでもダメじゃんとなる。メンツとか家とかに拘るのも、武家社会なんて碌でもないなとなる。
三樹夫

三樹夫