真鍋新一

プーサンの真鍋新一のレビュー・感想・評価

プーサン(1953年製作の映画)
3.8
才気が走りすぎている。

政治や社会を風刺する行為というものは、うっかり間違えると本気で考えなければならない事柄を笑いものにすることで無害化し、観客が本当の意味でその問題に向き合うことを阻んでしまう危険性がある。終戦直後の観客がこの作品を観てどんな感情を覚えたか。私だったら、こっちはマジで困ってんだぞ、バカにするなと激怒しただろうと思う。作り手が安全地帯から一歩も出ずに冷笑的な社会批判ごっこをしたところでまったく面白くない。精神障害をもつ息子を殺した母親をギャグ要員に使うんじゃない。本当に腹が立った。

まぁでも「血のメーデー事件」の現場に伊藤雄之助が巻き込まれるくだりで腹を抱えて笑ってしまったので、そういう意味で私も同罪、共犯である。戦後の人々が本当にしんどい暮らしを強いられ、否応なしに次の時代作りに組み込まれていく悲しさが、ギャグというにはあまりにも痛々しい描写から伝わってくる。この無気力さ、あるいはカラ元気。現代とそっくりで寒気がする。

とにかく、本物のニュースフィルムと俳優が演じるパートの編集が実に巧み。これだけは本当にすごかった。脚本でいくら書いてもどうにもならない部分。これぞ映像の演出というべきものだった。
真鍋新一

真鍋新一