風に立つライオン

アポロ13の風に立つライオンのネタバレレビュー・内容・結末

アポロ13(1995年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

 1995年制作、ロン・ハワード監督によるアポロ13号に起こった実話の映画化である。

 1969年、アポロ11号が人類最初の一歩を月にしるして以降1972年の17号までアポロ計画は継続されるも膨大に金のかかる本計画はそこで終焉となる。
 12号からは同じ有人の月着陸プロジェクトであるも飽きやすい現代人の注目度はグッと落ちていく。
 
 この物語はその注目度の下がる中で宇宙船の事故により月着陸が叶わなかったという不運に見舞われたものの、あにはからんやこの映画の狙いのように翻って人間の大いなる叡知と勇気、決断、家族愛などが凝縮された数日間に変化したプロジェクトを描いたものとなった。

 このアポロ13号の事故は1970年4月13日東部標準時13時13分に発生している。
 ゲンを担ぐ訳ではないがそれにしても13が並んでいて気持ちがいいものではない。 
 酸素と電力をほとんど消失し、ことの事態は普通に考えてほぼ絶望的な状況であることは明らかで瞬時の然るべき対応がなければ3人は間違いなく宇宙空間を漂うことになる。

 特に酸素タンクが爆発するという有事が発生した時に瞬時に何をすべきか、限られた条件の中でどうプライオリティを変化させ、どうチームを再編させ、目的を達成する為の形を作り上げるのかゼネラルマネージャーを中心としたビジネスマンには必見の見処満載のプロジェクトに変化する。

 NASAが舞台ではあるが、事業を推進する組織に通ずる極めて普遍的な要素に溢れていて企業の人事研修素材として充分なエピソードが含まれていると言ってもいい。
 特に事故発生時にNASAの主席管制官のジーン・クランツ(エド・ハリス)の行動基準には目を見張るものがある。
 この時代のコンピュータはまだまだ発展途上で今のスマホ一台が当時は家一軒分の大きさに相当していてそうした複雑なコンソール群のヘッドで指揮をとる彼がどう判断、決断しイニシアチブを発揮して指示を的確に発出していくのかが見ものである。

 パニクる有事現場では否定的な報告が錯綜する。
 そんな中、クランツは言う。

「何か肯定的な要素はないか?」

 情報を集約して的確な判断と指示を発出する者の構えである。

 そして集められた専門家達が船内にある限られた物から酸欠を回避する装置をどう作り出すのかも面白い。
 二酸化炭素濃度を下げる為に吸引口と排出口の形態が違うことで連結出来ずに皆頭を抱え込んでしまう。
 これだけのプロジェクトになると分業化によってロケットが造られるが、それもあって形態の違う口型が端的に汎用性の無さを浮き彫りにしてしまう。
 しかしこれをも超アナログ処理で潜り抜け、二酸化炭素濃度は見事に下がっていくのである。

 ジム・ラベル(トム・ハンクス)船長以下彼ら3人は個人的にも月面に立つ事が夢であったものの、生きながらえることに目的が変わり、その過程で描かれたエピソードは着陸すること以上の何かを人類に遺したと思えるし、NASAが舞台の実話だけに全編に科学と合理性が通底していて面白く、充分に物語足り得るのではないかとも思う。