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アラバマ物語のYYamadaのレビュー・感想・評価

アラバマ物語(1962年製作の映画)
3.8
【法廷映画のススメ】
『アラバマ物語』(1962年)
〈フィクション (1930年代 / アラバマ州) 〉

◆法廷の争点
・白人女性暴行事件に対する、
 青年黒人容疑者の冤罪の証明

〈見処〉
①アメリカ映画協会認定「法廷ドラマ」
 No.1作品
『アラバマ物語』(原題: 「To Kill a Mockingbird」=「ものまね鳥を殺すこと」)は、1962年製作のアメリカ映画。
・本作の舞台は1930年代、アラバマ州の架空の田舎町メイカム。兄のジェムと妹のスカウトのフィンチ一兄妹は、母と死別し、公平でその人柄で篤く信頼される町の弁護士である父親のアティカスの仕事を通し、人種差別、町にはびこる悪、貧困の悪化などを学び成長していく。
・ある日、アティカスに対して地元の判事が白人女性の暴行事件で、黒人容疑者のトム・ロビンソンの弁護の依頼をする。ジェムとスカウトは父が黒人の弁護を引き受けたことで、同級生とケンカとなるなど、周囲の心無い人々から中傷を受ける羽目になってしまう。
・裁判の日。陪審員は全て白人という被告人にとっては絶望的な状況で、アティカスは滔々と弁護を開始する…。
・本作は、ピューリッツァ賞を受賞したアメリカの女流作家ハーパー・リーの自伝的小説「To Kill a Mockingbird」を映画化したもの。本作は当時の出来事を後に成長した娘のスカウトが回想するという形式をとっているが、このスカウトが作者のハーパー・リー自身といわれてる。
・既に著作権標記欠落により、現在パブリックドメインとなっている古典作品であるが、2008年にアメリカ映画協会(MPAA)によって、最も偉大な法廷ドラマ第1位に選出された名作である。

②アメリカの恥部と良心
・本作の舞台は、古くからアフリカ系黒人の奴隷が綿摘みにより、綿の産地として発展してきたアメリカ南部アラバマ州。南北戦争(~1865年)にて奴隷解放されたアフリカ系黒人に対して、南北戦争前の白人優位の社会を取り戻そうとする流れが活発となった1930年代の「最も差別的地域」による、貧困者への差別と偏見という「アメリカの闇」を描いている。
・一方、本作でグレゴリー・ペック演じる弁護士アティカス・フィンチは、アメリカの良心を体現したキャラクターとして人気があり、アメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)選定の「アメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100」のヒーロー部門では、インディ・ジョーンズやジェームズ・ボンドを抑え、堂々の一位に輝いている。
・決して優秀ではないながら、絶望的な裁判で無実の黒人を救おうとしたアティカス・フィンチは、アメリカ国民にとっての「光」、正義のヒーローで、尊敬される父親像を体現している。

③複雑な作品構成
・本作の進行は、途中で視点となるべきキャラクターを変えながら展開していく。
・開始1時間は「子供の視点」から見た純粋な好奇心をノスタルジックに描かれ、次第に貧困層にあたる住民の不平と対峙していく。
・次は「アティカス」に視点がかわり、彼が担当した裁判に対して、弁護士からみた正義と、被告人である黒人トム・ロビンソンがうける迫害が描かれる。
・ラストは、本作が俳優デビューとなったロバート・デュバルが演じる謎の男ブーの行動に対する、保安官とスカウトによる必要な正義を守る意識が確認出来る。

④結び…本作の見処は?
○: 一見すると、デタラメな作品構成に感じ、序盤1時間は退屈に感じるが、閉廷後に起きた事件を原題「To Kill a Mockingbird」と絡めたストーリーは、確実に余韻を残す、非常に「浅そうで深い」物語。
▲: ヒッチコック作品さながらの、過剰なサスペンス仕立ての撮影・編集に時代を感じる。

アメリカの良心が詰まる本作であるが、舞台のアラバマ州では『黒い司法 0%からの奇跡』(2019)で描かれているような黒人差別が今も続いているのが不条理である。
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