ボブおじさん

おもいでの夏のボブおじさんのレビュー・感想・評価

おもいでの夏(1970年製作の映画)
3.7
監督のロバート・マリガンと言えばまず思い浮かぶのはグレゴリー・ペックが主演した名作「アラバマ物語」だが、この映画も忘れられない。

物語は使い古しだ。思春期の少年が年上の女性と経験する愛おしくも痛々しい〝ひと夏の経験〟が描かれている。思春期映画ではありきたりのパターンだが、この映画を初めて見たのが主人公と同じ15歳ということもあり印象に残る。

映画の冒頭ひとりの中年男性が、過去の思い出を語り出す。それは若き日に経験したある夏の思い出であった。

主人公の少年は、海辺の丘の上に住む年上の人妻ドロシーに憧れる。ドロシーを演じているのは、ジェニファー・オニール。ハーミーは友人達とガールハントに出かけるも同年代の子に興味を示さず、ドロシーのことが頭から離れない。

夏のバカンスも終わりに近づいたある日、ハーミーは、ドロシーを訪ねた。ふと目をテーブルにやるとそこには電報が一通。それはドロシーの夫の戦死を伝えるものだった。

慰める言葉もないハーミーは、彼女に促されるまま一緒にダンスを踊り、一夜をともにする。翌日彼女の家を訪ねると、一通の手紙を残しドロシーの姿はなかった。

物思いに耽るジェニファーの横顔が美しい。だが思春期の甘く切ない思い出の先には戦争の影がチラつく。原題は「Suner of '42」第二次世界大戦の時代を描いているが、背景にはベトナム戦争への怒りも感じられる。

この年のアカデミー作曲賞を受賞したミシェル・ルグランの美しいピアノの旋律がおもいでの夏に郷愁を漂わせる。

人は何かを得るとき、何かを失う。
あの時の少年はもういない。


〈余談ですが〉
脚本家のハーマン・ローチャーの回顧録と言われているが、真偽の程は怪しい。

自分も含め、かつて少年だった経験のある男なら、この手の年上の女との妄想は日常茶飯事。多少の文才さえあれば、〝あの夏の日の甘くほろ苦い経験〟など、頭の中で何本もシナリオを書いているはずだ。

誰にでも「おもいでの夏」はある。

ローチャーとの違いは文学的素養と自己顕示欲の差か?大抵のシナリオは、日の目を見ることなく、ひっそりと自己消費されるのであった😅