櫻イミト

ファントムの櫻イミトのレビュー・感想・評価

ファントム(1922年製作の映画)
3.5
ムルナウ監督が「吸血鬼ノスフェラトゥ」(1922)と同年に制作。長い間フィルムが失われていたが2000年頃?に再発見された。脚本はラング監督の妻で「ドクトル・マブゼ」(1922)「メトロポリス」(1927)などを書いたテア・フォン・ハルボウ。「ファントム」は幽霊の意味。

市役所の若い職員ローレンツは詩人を目指していた。ある日、馬車に轢かれてしまった彼は、乗っていた裕福な女性ヴェロニカに一目惚れする。しかしヴェロニカには婚約者がいて、あきらめきれない彼は彼女を想い続けていた。そんな時、彼女によく似た酒場の女メリッタに出会ったローレンツは、彼女に貢ぐために高利貸業をしている伯母から金を借りる。。。

「牝犬」(1931)、そのリメイク「緋色の街」(1945)等、”女に貢いで身を滅ぼす小市民”系の原点と言えるのではないか。ただし本作には明確なファムファタルは存在せず主人公の思い込みの激しさが滅びの原因となっている。

その思い込みにまつわる幻想表現に目を見張る。最初は家々が傾く特殊効果。次いで駆けてくる馬車(数回登場)。これは前年のスウェーデン映画「霊魂の不滅(The Phantom Carriage)」(1921)と、本作の題名ともども類似している。そして映像的に最高の見所となるのが、DVDジャケットに使われている酒場での夢幻的な享楽シーン。これらだけでも本作を観た価値があった。

と言うのも、それ以外の本編がシナリオも映像も変化に乏しく感じられたから。また、主人公の物語と並行して妹の堕落も描かれるのだが、そのために映画の軸が分散してしまったようにも思えた。

ただしラストの解釈によっては全体の印象が大きく変わるかもしれない。海外サイトのレビュアーが指摘していたのだが、刑務所収監後のシーンが丸ごと主人公の妄想とする説。その布石として様々な幻想シーンが挿入されてきたのだと。確かに面白い説なのだが、ならば冒頭も妄想シーンと捉えなければならない。曲解と思いつつも、いつかまた検証してみたい。

※原作はドイツのノーベル賞作家ゲルハルト・ハウプトマン。
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