140字プロレス鶴見辰吾ジラ

パーフェクトブルーの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

パーフェクトブルー(1998年製作の映画)
4.7
【鏡よ、鏡…】

久々に唸った大傑作。
虚構vs現実。

童話で「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは誰?」と問いかけたら、自分でない女が答えとして映し出される話しがあったな…

本作は鏡やガラス、パソコン画面など反射するモノに翻弄される元女優、現女優のタマゴの物語。ダーレン・アロノフスキーの「ブラックスワン」に大きな影響を与えている作品。

実は今敏作品は本作の前に「パプリカ」を鑑賞したのだが、「パプリカ」の夢世界(大虚構)のエンターテイメント性をより初期のミニマルな形で見ることができる。先に「パプリカ」を見ていたことで構図は掴みやすくなり、異常に犯される日常の描写のキレ味の浸透率が高い気がした。

女優のタマゴとしての現在(現実)の自分と反射の世界にいる過去(虚構)の自分の対立という精神世界の陣取り合戦に加え、熱狂的ファンの影と襲撃、そして出演ドラマのストーリーが重なっていき、クライマックスへ向けて何が現実で何が虚構か?そしてどこまでが夢でどこからが本当なのか?自己の境界線が破壊されていく様は鬱屈しているが清々しいまでにスリラーだった。横山やすし・きよしコンビが忙しいときは、起きている時と寝ている時を超えて、「目の前が明るくなったり暗くなったりするだけだった。」という逸話を思い出した。

ストーリーのヒントやむしろ答えは常にドラマの脚本や虚構側のサイドに存在し、自分自身の形が破壊されていく脆さが悪いのではなく、本来“自己“の価値は他人を介し反射した評価によるものでは?と思えてくる。

何度も恐怖を覚えるもベッドで目を覚ましたり、目を覚ませばまた虚構側だったりと純粋に恐怖が纏わり付く中で、しっかりとサスペンスとしてストーカーという視点を置くことによって、ストーリーの分解状態を引き起こさずゴールが用意されているので、破綻しているとさじを投げるエンディングでもないのが良い。

「鏡よ、鏡。」と問う側の精神的軋轢と、「女王様!」と狂信者側に潜む者、そして「成り代わり」というキーを配置した上で決着戦のアクションは娯楽的にもスリラー的にも良かった。

ラストは、脆い者と強固となった者の構図、そして「タクシードライバー」を見てトラヴィスを拒絶できないと考える者から見ると整理のついた決着だった。