おーつ

レ・ミゼラブルのおーつのレビュー・感想・評価

レ・ミゼラブル(1957年製作の映画)
4.5
【約2300ページの原作(新潮版)をどう映像化するのか?】今作は3時間越えの長尺で、それでも足りない部分はナレーションと字幕で補完をするという小説を読んでいるような感覚の映画。

本当は原作を読んでから感想を書こうと思ったのですが、2000ページ越えを読む余裕がなく、(今は『沈黙』を読んでいるのですが)他にも読まなきゃいけない本があるため映画版の比較のみとなります。

そこで映画版といってもかなりの数があるのでレンタル、配信等で観ることができる
・1957年版
・1998年版
・2012年版
を観てました。
ちなみに1995年版の『レミゼラブル 輝く光の中で』も観たかったのですが、中古VHSしかないため鑑賞断念しました。
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今作は最初に述べたように3時間を超える長尺である事に加えて、1957年ということもありカメラワークも動きが少ないため尚更淡々とした印象になっています。(だからと言って話のテンポ自体は良いです。)
そのかわり被写界深度や俳優の立ち位置の移動などから、心情が読み取りやすくなっています。
2012年版とかカメラがビュンビュンしてますからね。笑

私が観た3バージョンの中で、この1957年版が一番好きです。

それはジャンギャバン演じるジャンバルジャンの生き様が、他バージョンよりも圧倒的にレベルが高い位置にあるからだと思っています。

98年版のリーアムニーソン演じるジャンバルジャンは、そもそもストーリーを大きく改変しているため性格も異なり、
12年版のヒュージャックマン演じるジャンバルジャンはとにかく感情をぶちまけるんですよ。
12年版はミュージカルだから仕方ないかもしれませんが、このジャンギャバン演じるジャンバルジャンの寡黙さ、渋さ。
この作品の伝えたい事、良さがひしひしと伝わってきました。
神父の慈悲により罪人から生まれ変わった男が、法や身分を超えた『愛』を他者にそそいでいく。
ジャンギャバンが演じるジャンバルジャンの、弱音を吐かず、とにかく他者の幸せのために身を捧げていく姿に心を掴まれました。

その彼が最期、
彼に救われたコゼットとマリウスに『愛』を説き死んでいく様は、他バージョンに負けない名場面だと思います。

あと細かい点なのですが、
どのバージョンでも、
市長となったジャンバルジャンがジャベールの前で馬車の下敷きに市民を助けるために、重たい馬車を運ぶ場面があります。
ジャベールはこの時、刑務所でジャンバルジャンと同じように「重たい物」を持ち上げた人物を思いだし、ジャンバルジャンが囚人だと疑う場面があります。

この囚人時代にジャンバルジャンが持ち上げた「重い物」が全て違うんです!
57年版は石切場で崩れてきた石に下敷きになった人を助けた時の、上に乗る石。
98年版は石切場で作業してる時に運んでた石。
12年版は廃船をドッグ入りさせるさいに、落ちてた国旗付きの柱を運ばされたい時の国旗付きの柱。

98年版、12年版は強制としてジャンバルジャンが「重い物」を持ち上げましたが、
57年版は馬車に下敷きにになった市民同様、「人助けのために」に持ち上げたのです。
絶対57年版の方が良いでしょ!!!
皮肉なことに彼が囚人だとバレてしまうきっかけはどちらも「他者を助ける」という彼の良心がさせてしまった。
こちらの方がドラマチックで良いと思います。
おーつ

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