Mikiyoshi1986

砂の女のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

砂の女(1964年製作の映画)
4.9
本日で勅使河原宏監督、没後15周年を迎えました。
ということで久々に本作を鑑賞してみましたが、やはり末恐ろしいほどの完成度…!!

学生の時分、安部公房の小説に計り知れぬほどの感動と衝撃と受け、それ以降純文学を読み漁るきっかけにもなった思い出の作品。
この映画は勅使河原監督がその世界を見事に、しかも完璧に映像化してしまった奇跡とも云える傑作です。
安部公房が直々に書き下ろした脚本も手伝い、(あいつとの回想を除いて)シンクロ率120%の映像世界を実現!

ノーベル文学賞に一番近い男と称されながらも志半ばにしてこの世を去った文豪の代表作が、勅使河原宏による美意識の充填でそのリアリズムを更に肥大化させています。
ロケーションとか家のセットとか塩あんことか、とりあえず再現率が半端じゃない。
これは公私共に親交の深かった二人の間で、意志疎通が十分になされた結果でもあるでしょう。

色褪せることのない岸田今日子の妖艶さ。
汗ばんだ肌にまとわりつく砂のざらつき。
無機質かつ流動的な「砂」に肉体を囚われ、献身と情慾の巣食う「女」にその精神を囚われた男の運命…。
まるで男の存在意義が蛇の胃の中で微睡みながら徐々に消化されていくような、両側から押し迫る不条理の壁に潰されていくような、形容し難い辛辣な卒倒感覚に襲われます。

ここでは閉塞的な環境を用いることで戦後の日本が陥った現代社会の危惧を、そして人間の気質とその潜在的病理を鮮烈に炙り出していたりもするのですが、この抒情性を是非映像から読み取り、堪能できれば充足感はこの上ないことでしょう。
「罰がなければ、逃げるたのしみもない」のです。

さらに小説を先に読めば、本編で押し寄せる感動は何倍にも膨らむこと請け合い!
日本屈指の大傑作です。
Mikiyoshi1986

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