Jeffrey

レモネード・ジョー 或いは、ホースオペラのJeffreyのレビュー・感想・評価

4.0
「レモネード・ジョー 或いは、ホースオペラ」

冒頭、1885年のアリゾナ。ここはステットソンシティー。バットマン氏が経営するウイスキー酒場、西部の無法者たち、酒を飲み大乱闘、信仰深いグッドマン、美しい娘、電光石火のガンさばき、悪漢撃退。今、レモネードを頼むと男がカウンターで注文する…本作はオルドリッチ・リプスキーが1964年に監督したチェコスロバキア流のぶっとび西部劇で、この度廃盤のDVDボックスを購入して初鑑賞したが超絶面白かった。これはぜひ見て欲しいものだ。とにもかくにも奇想天外ヘンテコ映画である(良い意味で)。まず、DVDパッケージを見るとカラーだった為、普通にカラー映画と思いきや、モノクロムービーである。

この作品はミュージカル映画とまでは言わないが、主人公が歌うカーボーイなので、どこかしらそういう風に感じてしまう。映画全体的に痛快な活躍を描く実写とアニメーションが融合した映画で、ウェスタンをパロディー化したようなチャーミングな1本である。なんかチェコならではの風変わりな西部劇だと思う。本作は米国の西部劇、多分ニューシネマ到来以前の黄金期に作られたホースオペラのパロディーで、正義の味方と狡猾な悪役と酒場の歌姫と街娘がヒーローに憧れて恋する展開と王道な物語ではあるが、設定は面白い。

さて、物語は1885年のアリゾナ。バットマン氏が経営するウィスキー酒場では西部の無法者たちが、今日も酒を煽っては大乱闘している。信仰深いグッドマンと言う男の美しい娘ウィニフレットは、彼らにお酒をやめましょうと呼びかけるが、荒くれ者に絡まれてしまう。そこへ白ずくめの男が現れ、電光石火のガンさばきで悪者を追い払う。そしてカウンターへ行きこう告げる。レモネードを頼む…そう彼こそはレモネードジョーであるだ。



本作は冒頭に、馬で街を駆け抜けるファースト・ショットで始まり、酒場の中で大乱闘が行われている描写が写し出される。映像の画質はセピア色より黄色味が強い色を使っている。数人の男たちが階段から投げ落とされ、暴力、大人数で喧嘩をしている。中には平然と机に足をかけタバコを吸いながら新聞を読む紳士もいる。拳銃の手入れをする男や、ピアノ弾く男、椅子を投げる男、そうすると1人の男が合図を出して拳銃が撃たれ静まり返る。

そこへ、トルネードと言う若い娘が登場する。画面の色は赤く変わる。そして2階から美しい女性が降りてくる。一斉に歓声が上がる。そして歌を歌い始めながら下の会場へと降りてくる。先ほどまで大乱闘を起こしていた男たちは一斉に涙を流す。歌っている曲名は"タバコの煙"である。歌が終わると一斉に拍手が起こり、今日は店の奢りだと言う。みんながお酒をたらふくカウンターで飲み始める。

続いて、ルー(先程のトルネードと言う娘の事)に求婚を求めるオーナーらしきハットを被った紳士がカウンターで彼女に話すが、彼女は違う男を待っていると言い断られてしまう。そこで女性がビラ配りをしに来る。どうやらアリゾナを改善するためにお酒をやめましょうと言う宣伝らしい。飲んだくれの男がその娘にちょっかいを出し娘は叫びながら嫌がる。そこへ白い服に、白いハットをかぶった若い青年がやってくる。彼の名前はレモネード・ジョーと言う。

彼は娘に謝らなければスミス&ウェッソンが火を吹くぞと脅す。彼は数を数えてその男発砲する。そうするとズボンがずれ落ちる。男は慌てて逃げる。その娘はありがとうと言う。そして先程のルーと言う娘は彼こそ運命の人だわと恋をする。いよいよ2人の女性に好意を持たれたレモネード・ジョーは悪者退治していくのだった…と簡単に説明するとこんな感じで、モノクロ映画とされているけど基本的には黄色みがかった特殊な色合いで映されていく。ー部赤くなったり青くもなるが(青色の場面は基本的に過去の回想部分である)。その点、非常に風変わりな映画であるやはり。

いや、これは普通に面白い。映像に遊び心があって観客を退屈させない。例えば拳銃で撃ち合いする場面では銃の弾がアニメーションに変わったり、人間のカットが貼り継ぎの様に何度も変わる(地面、屋根の上に変わったりする)。主人公の男がピアノを弾きながらミュージカルさながらの歌を披露したり、ワンシーンだけで赤、黄、青のカラーバリエーションが連続で変わったりする場面などもある。

あと、墓場のシークエンスでモグラが土から出てくるように墓場から影を潜めてどんどん出てくる男の描写も滑稽で笑える。この映画冒頭からはすごく単純明快な流れで展開が進むのだが、途中から不条理な何でもありの世界へと変わる。例えば主人公の男レモネード・ジョーが殺されてしまうのだが、クライマックスでは彼が復活して悪党を倒したり、信仰深いグッドマンと言う男とその娘のウィにフレットがお酒をやめましょうと呼びかけてみるものの、荒くれ者たちはそれを無視して逆に絡んできて、彼女の危機にやってくるヒーローがレモネード・ジョーと言う単純明快で王道な道を行っている。だけど、中盤から終盤にかけては奇想天外な物語へとシフトしていく。

それに断る事にシュールな場面があって笑える。パラレル的な要素もあって画面の色合いが変わる例えばルビーやトパーズ色に染まるフレーム作りは見もので、チェコらしいアート感覚が映し出される。この作品は西部劇が好きな人はもちろんのこと、西部劇苦手な人でも楽しめるかもしれない。基本的にギャグが多く含まれ、へんてこな映像感覚と幻想と現実が溶け合う話なので面白いと思う。それにオマージュも含んでいるし…。

この映画には、2人の女優がほぼ主演レベルで出てくるのだが、2人ともすごく可愛らしくてよかった。チェコの女の子って基本勝手なイメージだけど、ゴスロリ系のメイクやファッションを好んでいるのかなと思っていたのだが、この西部劇に出てくる女の子たちのファッションはさておき、メイクアップやビジュアルはめちゃくちゃ好みだった。それとサントラがあるんだったら買ってみたいなと思うほどテーマ曲や流れてくる挿入歌が素敵。

ブラックユーモアというかチェコの監督のユーモアセンスってずば抜けているなぁと思う。この映画クライマックスがとんでもない終わり方をして観客を笑わせてくれる。そんな終わり方ありかよとまず突っ込むし、でもバッドエンディングではなくハッピーエンドって言うところもなかなか良い。というかそういった大団円をよく考えたなと思う。それと案外特撮のクオリティ高くてびっくりした。

ともあれ、この奇想天外な映画はレンタルリリースもされていないので、セル版の高いDVDボックスを購入しないと見れないのが残念である。今回自分のオルドリッチ・リプスキー監督の3作品を初見したがどれも面白かった。後、唯一国内でVHS化されているらしい「アインシュタイン暗殺指令」と言う作品にも手を出してみたいなーとは思ったりしている。
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