櫻イミト

恐怖の土曜日の櫻イミトのレビュー・感想・評価

恐怖の土曜日(1955年製作の映画)
3.0
フライシャー監督が前期に手掛けた佳作。史上最低予算で作られたシネマスコープ・カラー映画。銀行強盗が起こった町の群像劇。

ある金曜日、アリゾナの鉱山町にセールスマンと称して三人組ギャングがやってくる。彼らは銀行強盗を計画していた。一方、町の製銅会社に勤めるマーティン(ヴィクター・マチュア)は、彼が戦争に従軍しなかったことで息子が友達にイジメられていることを知り気にしていた。同じ会社の後継ぎであるボイドは妻が浮気性で悩んでいた。そして翌日の土曜日、ギャングたちは銀行を襲撃するが。。。

フライシャー監督作の中では珍しく微妙な出来映えの一本だった。

1時間半のうち1時間弱を使って、後に強盗事件に出くわす町の人々の事情が描かれる。クライマックスの布石なのは容易に想像がついたが、日常描写がシナリオ演出共にいまひとつ冴えておらず、しかも長すぎるため退屈ギリギリな印象。さらに布石の行きつく先も予定調和の範疇なので拍子抜けしてしまった。

見所はアーネスト・ボーグナイン演ずるアーミッシュ(自給自足のキリスト教集団)の農家での銃撃戦。このシーンだけはフライシャー監督の本領発揮で流石の非情な描写が楽しめた。序盤、製銅工場の煙突から伸びた橋のような煙の下をギャングの乗った列車が向かってくるロングは象徴的なミラクルショット。まるで合成の様だった。

主演のひとりヴィクター・マチュアは、ずっと続けて観ているキリスト教史劇で馴染みの顔。いつも不器用な役どころが多いので、本作で息子にカッコいいところを示す姿にこちらも嬉しくなった。シルビア・シドニーやボーグナインなど有名俳優がチョイ役で登場するが、当時は映画会社がテレビへの対抗策として豪華スター布陣を敷く傾向があったとのこと。

日本では妙に絶賛レビューが多い。蓮実重彦が本作を絶賛した影響もあるかもしれない。
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