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若き日のリンカンのzhenli13のレビュー・感想・評価

若き日のリンカン(1939年製作の映画)
4.4
ヘンリー・フォンダ演ずるエイブラハム・リンカーンの演出よ…飾り気がなく茫洋として強い陰影を伴い(法廷シーンでは明らかに彼だけ陰影を強調されてる)、痩身に長すぎる脚を常にもてあますかのような佇まいはリンカーンに激似で驚く。そして本日誕生日であった友人のことも思い出した。彼の背はフォンダより2,3cm低いだろうが、狭い座席に矢鱈と長い脚を折り畳めずときどき投げ出している友人がこのフォンダを見たら共感するに違いない。

とはいえフォンダのリンカーンは必要以上に脚を投げ出す。法廷でも裁判長に向けて脚を投げ出す(日本ではあり得ないが)。ポケットに手を突っ込んで群衆の前に姿を現し、静かだがわかりやすい喩えで人々を納得させるようすは、のちのリンカーンを想像させる演出となっている。
バラク・オバマなんかここまで身長高くないけど痩身でスマートに見える振る舞いは、もしかしたら本作のヘンリー・フォンダの立ち居を意識してたかもと思ったり。

脚を投げ出すしぐさと言えば、連名で法律事務所を開設したばかりのリンカーンのもとで顧客の男二人が言い争う短いショットに、あっと目を奪われた。採光のある事務所の窓辺に脚を投げ出すリンカーン、その後ろに男二人という構図がことのほか美しい。フェルメールの描いた「天文学者」のようでもあり、リンカーンが弁護士となった同時代にイギリスでカロタイプを発明したタルボットの写真のようでもある。そしてスピルバーグの『リンカーン』にもこれと似たショットがあったような。

独立記念日のお祭り(1776年独立戦争に参戦した老人たちがパレードの馬車に乗っている。80歳くらいなら当時生存していたのだ)のシークエンスも、リュミエール兄弟の時代を彷彿とさせる固定の落ち着いたロングショットが見られる。このシークエンスが矢鱈と長い。「パイ食べ比べ対決」など割とどうでもよさそうな催しが開始時間のキャプションとともに時系列でのほほんと丁寧に並べられている。丸太割り競争はエピソードとしてアトリビュートのようになっているリンカーンの面目躍如といったシーンになっている。ここもまさにリュミエール的な固定ロングショットで、楔を入れながら長い丸太を縦に割っていく一部始終をワンカットで撮っているうえにここでもフォンダの長い脚がコンパスのように丸太を跨ぐこととなる。またキャンプファイヤー的な「タール樽点火」というイベントはちょっと大丈夫かというくらい高い炎を上げており(これはセットじゃなくロケだったのだろうか)、焚書大会のようにも見えるのだが。無駄に長いようで、この独立記念日の催しが夜に起きる事件につながるシークエンスとなっている。
死刑になるかもしれない二人の息子の証言を拒むアリス・ブラディ演ずる母が法廷シーンで活きてくる。フォンダが弁護側として法廷でワード・ボンド(若い)を問い詰めるシーンも長回しで撮られていて「最後にもう一つだけ質問を」って刑事コロンボかよ。てかコロンボの決め台詞は本作のオマージュだったのか…?ここのシーンがクライマックスとなるのだが、いちいち寄ったりしない。寧ろざわつく群衆をフレームインさせるために若干引く。その後ブラディが感極まるアップが挟まれるものの、おそらくワンカットで撮っていて緊張感が持続している。

本作はエイブラハム・リンカーンの前日譚であり法廷サスペンスとしても成立している。それにちょっと面白いなと思うのが、のちにエイブラハム・リンカーンの妻となるマージョリー・ウィーバー演ずるメアリー・トッドとの出会いはあるものの彼の琴線に触れるようなエピソードが用意されておらず(力のある男に日和る天真爛漫なお嬢様にしか見えない)、被疑者の母役のアリス・ブラディとの「瞼の母」的な交流のほうがクローズアップされているところ。
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