LalaーMukuーMerry

ロルナの祈りのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

ロルナの祈り(2008年製作の映画)
4.2
ダルデンヌ兄弟監督作品、私にとっての第4弾。これまでの3作品(「少年と自転車」「息子のまなざし」「ある子供」)と同様にエンタメ要素ゼロ、BGMなし、状況説明なしのドキュメンタリー風。これまでと同様に、主人公は家庭に恵まれず、経済的にも恵まれず、周りに何か悪さをしている人がいる環境なのも同じ。
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今回は悪さのたちが深刻な感じでかなり複雑。ベルギー国籍取得問題、外国人と偽装結婚を仲介する闇ブローカー、薬物中毒などを描きつつ、主人公ロルナの母性が犯罪の計画を狂わせて、彼女は犯罪者グループと袂を分かち、子を育てて生きていく意思を感じるラストで、この前に見た「ある子供」に通じる部分があるように思いました。
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ネットで調べたところ、外国人がベルギー国籍を取得すれば2年後にはモナコの永住権を獲得できるらしい。モナコはタックス・ヘイブンの国だから、税金を払いたくないヨーロッパの金持ちの中にはベルギー国籍をとろうとする輩がいる。作品に出てくるロシア人はそういう人物なのだろう。
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その金持ちロシア人の国籍取得を手助けして、手数料として大金を得ようと暗躍する闇ブローカー、ファビオに協力するのが主人公のロルナ。彼女はアルバニア移民なのでベルギー国籍はないが、まずベルギー人男性と結婚してベルギー国籍を取得。次にさっさと離婚してロシア人と(偽装)結婚するという作戦だ。
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ロルナは普段は地道にクリーニング店で働いている。彼女にはアルバニア人の恋人ソコルがいる。彼はドイツで働いていて時々会いに来てくれる。二人は将来一緒になってベルギーで暮らしたいと考えている。ロルナのやっていることを彼は知っていて、二人の間には秘密のない関係だ。
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踏み台にされたベルギー人の若者クローディはひどい麻薬中毒でやせ細った男。彼には離婚したらお金を払うと言ってあるが、ファビオの計画ではヤクで死んでもらって次に進むことになっている。
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ヤクの症状のないときのクローディは根はいい奴で、薬物中毒から抜けたいと本気で思っている。自分がヤクの売人に会わないようにロルナに協力を求め、立ち直れるように彼女を頼りにしてきた。入院した「夫」につきそって病院に行ったりして、立ち直る手助けをするうちに、ロルナは次第に計画の変更を考えるようになる。本当に離婚して次に進めばいいではないか。
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クローディに協力してもらって家庭内暴力を理由に離婚を認めてもらおうと動き始めるロルナ。自分を傷つけ、ちゃんとした保証人もみつけ、警察に届け・・・、正式に離婚を認める書類が裁判所から届く。喜ぶロルナ。
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急に場面が変わる。 亡くなったクローディの遺品を整理するロルナ。
ちょっと遅れたもののファビオの計画通りに事は進んでいた。偽装結婚相手のロシア人と会い、前金をもらう。その金で、二人で暮らす場所を手に入れようと一緒に物件探しを始める。良い物件を見つけて喜んだのもつかの間、ロルナの体調に異変が・・・
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ロルナの胎内はクローディの子を宿していた。その子を堕ろそうと産婦人科に行ったものの、土壇場で「堕ろしません」と言ってしまうロルナ。計画が台無しになるとファビオもソコルも猛反対。何としても堕ろさせようとする魔の手から逃げようと決意するロルナ・・・
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大切なことを一つ書いておりませんが、その一つによってロルナの行動は母性からなのか、それとも狂気によるものなのか? わたしにはよくわからなくなりました。
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ストーリーの全体像が次第にわかってくると、共感できる点はほとんどなくなるのですが、強烈に惹きつけられる手法はさすがというべきか。ハマル人はとてもハマるダルデンヌ兄弟作品。税金逃れのための金持ちの利己的な行動が、社会の底辺の人に犯罪をさせることになる世の中の仕組みに矛盾というか不条理を思う。そもそもタックス・ヘイブンの存在がどうして許されているのか、資本主義が抱える本質的な欠陥なのではないか?