風に立つライオン

ファーゴの風に立つライオンのネタバレレビュー・内容・結末

ファーゴ(1996年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

 1996年制作、ジョエル・コーエン監督、コーエン兄弟による脚本でアカデミー脚本賞を獲得したミステリー・サスペンス&ブラック・コメディ映画である。

 コーエン兄弟の脚本って意外性があってへんにリアルという趣がある。
 「バートン・フィンク」では脚本家の作品を産む苦しみを描きつつホテルの隣室に居たのは大男の殺人鬼であったり、主人公が崇拝していた脚本家の作品は実は秘書が書いていたというエピソードなど意外ではあるが結構リアリティがあったりする。
 「ノーカントリー」も善人ではない主人公の振る舞いやエアーコンプレッサーガンを使ってコイントスで次々と殺人を犯していくシガーの凶暴性、彼らを追う退職直前の警官の振る舞いや主人公を執拗にカメラが密着していたのにあっさりと殺されてしまう展開など意外性に富んでいながら有りそうな趣きがあったりする。

 本作は中古車ディーラーの営業マンによる狂言誘拐事件を描いていてちょっとしたすれ違いからとんでもない大事件へと発展してしまうという物語である。テイストはコメディで笑わせるシーンも多い。

 主人公は町の保安官の妊婦マージ(フランシス・マクドーマンド)で、捜査中につわりがきたり、家ではボーッとした亭主と全くごく普通の会話が交わされたりする。

 狂言誘拐の首謀者たるジェリー(ウィリアム・H・メイシー)の呑気かつそのいい加減さは結局、義理の父親をも死に至らしめる。
 行き当たりばったりの適当さがバカを生み出すのであるが、こういう男って結構いたりする。

 誘拐を依頼された犯人二人のキャラも対照的で面白い。
 おしゃべりで頓珍漢なショウォルター(スティーブ・ブシェミ)と無口で凶暴性を秘めているグリムスラッド(ピーター・ストーメア)はジェリーの描いたシナリオを守らず大きく道をそれて大事件化していく。
 結局、浅薄な知恵が世の中からはみ出した奴等を使って産み出された結果はろくなことにはならない事を目の当たりにするストーリーでいい加減な奴がいい加減な奴等に仕事を頼むとおおかたこんなことになるのであろう。
 が、そこに描かれる局面の人間模様が実に面白おかしく描かれていて飽きさせない。

 ラストのグリムスラッドが木材粉砕機に相棒を血飛沫をあげながら押し込んでいるシーンでグロなテンションを最高潮に上げさせられるが、彼を逮捕し殺伐とした世界から一転、家に帰ったマージがボーとした夫から自ら描いた絵が3セント切手に採用されたと告げられ、二人でベッドに入るシーンのギャップ落差にはこの世界の妙なリアリティを感じてしまうしクールダウン効果も著しい。
 日本でもマル暴のヒットマンが人を射殺した後、帰宅後奥さんに頼まれて公共料金の納付に銀行窓口に出向いたりするのだろうか。番号札を手に順番が来るのを待っている姿はきっと善良な一般市民に見えるだろうと思う。
 
 「事実は小説よりも奇なり」を地でいく作風で、風変わりだがやはり面白い!