みおこし

蜘蛛女のキスのみおこしのレビュー・感想・評価

蜘蛛女のキス(1985年製作の映画)
4.0
ファシズムが台頭するとある南米国家。同じ監房に収監されているのは、未成年との性行為を罪に問われたゲイの男性モリーナと、反政府行為の結果捕らえられた政治犯バレンティンの2人だった。一刻も早く牢を抜け出して仲間たちとの政治活動に戻りたいと野心に燃えるバレンティンに対し、モリーナは一日中架空の映画の物語を考えることに夢中。当初はそんなモリーナに苛立っていたバレンティンだったが、警察から拷問を受け続ける彼を献身的に支えてくれるその優しさに胸打たれ、いつしか2人の間には特別な絆が生まれはじめる…。

先日日本でもミュージカル版が上演されることが発表になった、アルゼンチンの作家マニュエル・プイグ原作の同名小説の初めての映画化。本作でモリーナを演じたウィリアム・ハートはアカデミー主演男優賞を獲得。今レビューを書きながら思い出すだけでも胸が熱くなる、素晴らしいヒューマン・ドラマでした。
社会的に立場を追われ、監獄の中で絶望の果てにいる2人の男性が心を通わせていくというエモーショナルなお話。ほとんどが2人の会話で構成されているのですが、野心家で時に残酷な言葉を口にするバレンティンに対して、まるで聖母のような愛情をもって優しく接し続けるモリーナという対比が本当に絶妙。特に警察から拷問にかけられた結果体調を崩してしまうバレンティンをモリーナが看病するシーンがあるのですが、ここが特に印象的な場面でした。紡ぎ出されるセリフ、2人の表情…。とにかく主演のウィリアム・ハートとラウル・ジュリアという2人の演技があまりに素晴らしく、終盤はずっと泣いてしまいました…。モリーナになりきったハートの演技は言わずもがな、『アダムス・ファミリー』などで見せるコミカルな演技とは正反対のジュリアの抑えた演技に唸るばかり。”自分を偽らずに、人をまっすぐに愛する”ことの素晴らしさ、そして儚さ。そんなテーマを本作からは感じ取りました。
また、モリーナが語るナチスの将校とフランス人歌手の架空のラブストーリー、そして南国の孤島に住む”蜘蛛女”の話など、現実から離れた独特のシークエンスも、現実世界のモリーナとバレンティンの展開を暗示させる内容で心に残ります。

実生活でもハートとジュリアは良き友人で、たまに電話をつなげながらっチェス対戦を楽しんでいたということですが、ジュリアは本作の9年後に胃がんのため54歳の若さで他界。そんなエピソードも踏まえながら鑑賞すると、より胸がいっぱいになりました…。
ヒューマン・ドラマがお好きな方にはぜひご覧いただきたい傑作。
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