ヒノモト

ステレオ/均衡の遺失のヒノモトのレビュー・感想・評価

ステレオ/均衡の遺失(1969年製作の映画)
3.1
デヴィッド・クローネンバーグ監督の学生時代1969年製作の中編作品。
今月、特集上映もあったようですが、今作と「クライムオブザフューチャー」が観たくて、ボーナストラックとして収録されている「ファイヤーボール」のブルーレイを先月購入していたので、自宅鑑賞しました。

近未来の性愛について研究する施設内で脳神経手術により、言語を奪われた被験者たちがテレパシーを通じて交流していく様子を、観察するような視点で、実験報告のモノローグのみで語られる作品。

カナダの大学のキャンパス内で撮影された作品で、サイレントで演者の芝居として観るべき点は乏しく、現時点で表現できないクローネンバーグのイマジネーションの部分をナレーションで語っていて、映像はサブテキストのような感覚でした。

ナレーションで語られる実験報告は、いかにも理系学生が作り上げた回りくどい言い回しを多用しているのですが、クローネンバーグ監督がその後の作品で幾度となく語られるテクノロジーが発展することへの猜疑心があり、現代人の理論武装を取り払い、言葉を失った被験者たちの相手を求める性衝動のめざめ、愛というものの不可思議さが、テレパシーなどの超能力を持ってしても察知できない感情の揺れが上回り、そこから孤立や対立を生み出すということが言いたいのではと感じました。

「クライムオブザフューチャー」も同じ大学内で撮影されているのですが、撮影場所によっては、当時の建築の美しさが際立ったシーンもところどころにあり、全く見所がない訳ではないですが、サイレントで芝居を見せるほどの絵力はないので、映画としては退屈です。
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