kuu

Zのkuuのレビュー・感想・評価

Z(1969年製作の映画)
3.8
『Z』
原題 Z.
製作年 1969年。上映時間 127分。

ギリシャで実際にあった革新政党の政治家暗殺事件をモデルにしたヴァシリ・ヴァシリコスの小説の映画化フランス・アルジェリア合作。
製作担当はジャック・ペランとハーメッド・ラチェディの二人。
監督は『七人目にかける男』のコスタ・ガブラス、脚本は『戦争は終った』のホルヘ・センプランとコスタ・ガブラスの共作。
撮影は『中国女』のラウール・クタール、音楽は『その男ゾルバ』のミキス・テオドラキスがそれぞれ担当。
錚々たるメンバーやなぁ。
出演はイヴ・モンタン、イレーネ・パパス、ジャン・ルイ・トランティニャン、ジャック・ペラン、ほかには、レナート・サルヴァトーリ、ジョルジュ・ジェレ、ジャン・ピエール・ミケル、ベルナール・フレッソン、ジャン・ブイーズ、シャルル・デネール、マルセル・ボズフィなど。

地中海に面した架空の国。
反政府運動のリーダー、
Z (イヴ・モンタン)は、 政府から監視、圧力を受けている。
ある日、集会での演説の後、何者かに襲われ、命を落とす。
Zの仲間たちの証言から、殺人らしいことが分かってくる。
やがて、証人たちが行方不明に。。。

『なぜ我々の思想を暴力で封じるのか。それは我々の運動が、人民の側に立ち、権力と対立するからだ。』

実際にあったギリシャの左翼政治家の暗殺事件に基づいた本作品は(※詳しくは末筆に記載しときます。)、権力による弾圧に対して、鋭く抗議する映画を撮り続けるギリシャのコスタ・ガヴラス監督の傑作て云えるんかな。
ミステリー・タッチの語り口が巧みでした。
まず、反政府運動のリーダーであるZ の死を、権力側は、事故死として処理しようとする。
判事(ジャン・ルイ・トランティニャン)もまた、やむを得ず訴訟を取り下げようとする。

Zの友人たちが、調査に乗り出し、Zの 遺体には殴られた跡があり、事故ではないこと、集会は、当初、予定していた場所が、直前に変更されていたことなどが明らかになる。
チョイとケネディ暗殺を思い出した。
国家の犯罪を暴こうとする判事は、新聞 記者 (ジャック・ベラン)の協力を得て、調査を続けていく。
やがて、これは、計画的な組織による殺人ということが分かってくる。
判事は警察組織の関係者を告訴しようとするも、タイミングを合わせたかの ように、証人たちは行方不明に。
憲兵隊長たちは告訴されるが、これで映画は終わらない。
裁判の結果がテレビで報告される。
事件に関係した証人たちは、事故や事故死であるということになり、憲兵隊長たちは不問に。
そして、ストライキだけでなく、ミニ・ スカート、ロン毛、ポピュラー音楽までもが禁止となる。
権力の思想統制は、さらにエスカレートしていくことに。
政治色の濃い映画なんやけど、Zの死因を探りあてるくだりやら、権力側のでっちあげが、ひとつひとつ嘘であることが分かる調査のプロセスは、サスペンスたっぷりあり、まるで上質のミステリーのようで、エンタメとしてもじゅうぶん楽しめました。 

映画の一番最後に、メッセージが今作品のタイトルを秘めてるのかな。
"Also the military regime banned (...) the letter "Z" which means "He is alive" in ancient Greek."
"また軍事政権は、古代ギリシャ語で『彼は生きている』を意味する『Z』の文字を禁止した。"


ギリシャの民主的政治家グリゴリス・ラムラキスが暗殺された事件を題材にしている。
1963年5月22日、ラムラキスはテッサロニキで反戦演説をした後、右翼過激派に襲われ頭部を殴られた(映画で描かれているのと同じ方法)。
1963年5月27日、この襲撃による脳損傷で死亡した。ラムラキス暗殺後、1967年、右翼将軍による軍事政権がギリシャ政府を掌握した。
この間、ギリシャの都市では、ラムラキスと彼の民主主義的理想を偲んで、『Z』(『彼は生きている』の意)の文字が抗議の落書きとしてよく使われるようになった。
軍事政権は、こうした抗議行動に対して、『Z』の文字を落書きとして使用することを禁止した。
1974年、トルコによるキプロス侵攻(トルコ軍にキプロスのほぼ半分を占領される)という惨事を受けてギリシャ軍政は崩壊し、ギリシャに民主主義がよみがえる。
映画やと、ジャン=ルイ・トランティニャン演じる「試験判事」が、実際には後にギリシャ共和国大統領(1985~1990年)を務めたクリストス・サルセタキス。
kuu

kuu