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Raging Grace(原題)のhorahukiのレビュー・感想・評価

Raging Grace(原題)(2023年製作の映画)
4.0
誰もが誰かの無自覚な“マスター”

予想以上に面白かった!住み込み家事労働者の母子が、金持ち宅のドス黒い秘密に直面する令和版『家政婦は見た!』。秘密が明かされるに連れて二転三転して見え方がガラッと変わる物語のスリリングさと、権力に奪われるアイデンティティの悲鳴に移民の観点で寄り添った良作!

家事労働者の主人公はフィリピンからイギリスに来た移民。幼い娘と家事労働で色んな家を転々とするも、移民故か「何か盗まれるのでは?」と常に疑われ仕事中ずっと凝視されたり、見抜き的な性的消費されたりと「人」として扱われない。自分たちだけの家を持つことを夢見て、怪しげなオッサンに搾取されながら主人公はせっせと働くも、そのせいで娘ちゃんのことが少し疎かになってる…。果たして念願のマイホームをゲットできるのか?

序盤から矢継ぎ早に支配される・所有される人間としての移民の日常に寄り添いつつ、蹂躙される文化的アイデンティティとしてのエキゾチックな曲が搾取的な現実に対抗する精神性として対比される。上下を意識したアングルも編集もオシャレで小気味良く、それゆえに矮小化される事物と窃視的ショットはスクリーンのこちら側に対する対岸の火事的皮肉としても機能している。この辺りの息苦しさはオシャレ感によって多少減退しているから見やすいし、そこからはまるでスパイ映画とか『ドントブリーズ』的なハラハラスリリングかつコメディチックな楽しさをも兼ね備えたエンタメ展開へと様変わり。

住み込みで金持ち宅に雇われたは良いけれど諸事情により子供がいることを言えない主人公は雇い主に黙って娘をクローゼットに隠して毎日をやり過ごす。でも娘ちゃんが超悪戯っ子なので「大丈夫👌」って部屋から出てきては雇い主に見つかる・見つからない的なギリギリの攻防で魅せる!この時のカメラ位置とか言語的な誤魔化し方とかスリルとコメディの両立的で好き。

更には屋敷には寝たきりで意思疎通できないお爺ちゃんが居て、雇い主はお爺ちゃんから見たら姪らしいのだけど、抵抗できないお爺ちゃんに何やら怪しげな薬を飲ませているのを娘ちゃんがベッドの下から目撃!この家ほんとに大丈夫?ヤバいんじゃない?的に物語の方向性が定まったかな?と思わせてから二転三転していく感じ。

移民だけでなく介護職等々のエッセンシャルワーカーや被害者としての女性を、植民地主義的に「所有する」という加害者・権力者サイドの傲慢さをもって統合し、「あたしらおらんかったらあんたら何もできねーじゃん!」との痛快な心持ちを礼賛する姿勢が現代的。そこに普遍的な親子関係も織り交ぜ、「子どものため」だとの独善的で一方向な決定によってツケを払わされ続ける子どもと、そんな子どもからの訴えを悉くスルーする姿こそ自身が「所有する」側に無自覚に回ってしまっているのだというレイヤー移動も仕込まれ、それは届かない「愛してる」の手紙と同様な一方向性ともリンクして、その全ての解消を個としての精神的アイデンティティを保持する(自己)・認める(他者)ことで成す綺麗な帰結。お屋敷の2人も“マスター”を巡った相剋だったもんね。面白かった!
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