マーフィー

WILLのマーフィーのレビュー・感想・評価

WILL(2024年製作の映画)
4.6
2024/04/16鑑賞。

「追いかけ続ける問いかけの答え」

俳優 東出昌大のドキュメンタリーなんだけど、
東出昌大を通して世の中や狩猟の世界、生きることとはなんなのかを考えさせられる良作。
東出昌大という人間を見ているはすが、
気づけば狩猟の世界に魅せられ、そこにある社会問題を突きつけられ、気づいたらまた東出昌大という人間を見ていた。
悲しいかな現代では馴染みがなくなってしまっている「生命をいただくこと」の重みを感じるなら、
長く狩猟の世界にいる人間から直に聞くようなドキュメンタリーでも可能だろう。
でもそうではなく、東出昌大の葛藤する姿を通して見ることで、とても近く感じることができたと思う。

また東出昌大の狩猟生活は東出昌大という人間のこれまで歩んできた道のりと地続きで、
社会の反応、事実とフェイク、それを取り巻く人々
その全ても含めた東出昌大の死生観が、とてつもなく深い。
それを考え続けていることも尊敬に値する。

そして劇中のMOROHAの楽曲が、まるで東出のために作ったリリックかのようにシンクロしてこれまた素晴らしい。


東出昌大を含む、この映画に登場する人物たちの話す言葉に
パンチラインがありすぎてすごい。
東出昌大の死生観に大きな影響を与えるのにも頷ける。


東出昌大の喋りが『青春ジャック』のセリフの訛り方とめっちゃ一緒だった。
そのままの話し方があんな感じなのか、役作りの影響とかがあったのかはわかりませんが。

『福田村事件』の役作りや撮影の裏側も少し見られた。
そういえばコムアイって鹿の解体してたんよなあ…。
東出昌大がこの映画の中で「臭いものに蓋をするから生きづらい世の中になる」と言っていたが、
福田村事件にも「臭いものに蓋をしてきた世の中」が根深い問題としてあって、
そういう共通点を感じて出演に至ったのかなと思った。


話しているシーンを映しながら、
全く別のテロップで説明するシーンが多い。
一見わかりにくく見えるけど、なぜか両方理解できる不思議。



「考えること=歩みを止めること」で、便利じゃない。
だから現代社会では便利じゃないことは淘汰されてしまうし、
しんどいからみんな利便性に走る。
生命をいただくことが、身近にある「考えること」の一番最たるもののはずが、
利便性が考えることをなくし、加工済みの生命をスーパーで手にとる日常に。
切り身が泳いでいると思っている子どももいると聞く。

環境破壊、屠殺、差別の歴史、戦争など大きな問題から
生き死に、将来、虐待など身近に起きる様々な問題まで、
できるだけ向き合わずにいれば楽に生きることができる。
考えることはしんどいし、思考停止で生きていける方が本当に楽。
「難しい問題ですね」って言っていれば考えてる風に逃げることもできる。
日常的に思考停止に陥っている人間はたくさん目にするし、私自身も問題によって思考停止していることは沢山あるだろう。

そういう「考えないこと」が必ずしも悪いことなわけではない。
全てのことをひとつひとつ考えながら生きるのは非常に労力が要る。
全部を考えて生きていくのには処理が追いつかないので、人間はステレオタイプを形成していくという。
生きていくために必要な効率的な処理ということだ。

でもそういう考えない日常から、
「考え続けた方が楽しい」と東出昌大が言い、色んな人が色んな所で考えるシーンを繋げていくカットを見て、少しでも考え続けることにシフトできたら、
この映画を見る意味はあるんだと思う。


パンフレットの東出日誌も最高に読み応えがある。
非常に楽しい映画体験でした。



印象に残った言葉などなど、コメント欄。
マーフィー

マーフィー