ryosuke

ヘル・レイザー 4Kデジタルリマスター版のryosukeのレビュー・感想・評価

4.0
 謎の箱を購入するファーストシーンを手短にすませると、次のカットでは即座に開封の儀に入っている。続けざまに、人肉部品が引っ掛けられた謎の柱が回転し、大量の揺れる鎖がぶら下がっている謎の空間が登場する。とりあえず観客が見たいものは勿体ぶらずに一度見せるというサービス精神を感じる。
 ベッドを狭い通路に押し込む動きと回想の中のベッドシーンのクロスカッティングは実にくだらないが、釘に引っかかって裂けた皮膚から一滴が異常に多い血液が垂れて床に跳ねるのは変な感じで良い。血液はすぐさま床に吸収され、ネバネバとしたズルムケ人間が床から生えてくる。この時代特有のストップモーション・アニメーションのぎこちない挙動が地獄の自然法則を見事に表現している。素早く這い寄る動作なんて最悪すぎて素晴らしい。
 引越し業者の男2名の下心満載の不快な目線。ホラー映画に特有の単なる脇役に異常な不愉快さを付与する演出。しかしこれは必ずしも物語上意味のないものではなかったようで、血の生贄が性的な関心によっておびき寄せられることを予告していたのかもしれない。本作の暴力は、「ここまで来てそれはないぞ」などと宣う、男のトキシックな側面への裁きとして読み直すことも可能であり、これが「男性的」な暴力性の権化のフランクおじさんの結末へと繋がっていく。
 雷の晩、いるはずの部屋に姿が見当たらなかったフランクの所在を、ベッドルームに入ろうとする夫婦の手前をサッと人影が横切るカットで表現するのが上品でいい。濃厚な悪意のこもった遮蔽物越しの主観ショット。初めて不倫関係に入った際に下着を切ったあのナイフが発動しようとするが、ネズミのスライス!で何とか我慢する。
 ヒロインが奪い取った箱を窓から投げ、カットが家の外に素早く移行するとサッと箱を拾って駆けていく。簡潔なアクションだ。二人の修道女の間を走り抜けた際、修道女が不審な表情で振り向く。箱の邪悪さを手際よく示唆しているな。
 空間を強引にねじ曲げるのはホラー映画の特権であり、本作でも開かずの病室に異世界への通路が開く。病院の地下と地獄が接続したフルチ『ビヨンド』を思い出す。細い道にぴったりフィットした二つの顔の化け物のビジュアルが最高すぎる。カサカサ動くのが可愛い化け物との絶望的なカッティング。
 父親の皮を被った化け物と抱き合うシーン、首の裏の血液が正体を示しているアイデアが素晴らしい。アンドリュー・ロビンソンは表情を一変させてフランクの毒性を帯びた男を表現しており、見事な演じ分けだった。
 どこからともなく現れた鎖によって横に引き伸ばされたフランクの顔は笑っているようにも見え、痛みが悦楽でもあるという旨の謎めいたセリフを実証しているように映る。魔導士はみんなキャラ立ちしていて、どなたも素敵なお顔だった。「キリストは泣き 俺は復活する」「お前が見るべきものを見せてやろう」などと、劇中最大の見せ場においては、少ないセリフがこれまた爆弾級の威力を放っている。
 ドアの先の暗闇の向こう側には必ず何かがいるはずなのだが、また一番可愛いアイツが出てきてくれて良かった。ちっちゃい手で箱を奪い合うのがキュート。ペットショップで生きたまま虫を食っていた男が再登場。伏線ともいえない雑な伏線を回収し、こんなのも出しとけ出しとけという精神で突如導入されるドラゴン。最高。
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