このレビューはネタバレを含みます
去年劇場でこの作品を観た時は。
あまりの衝撃で席を立てませんでした。
監督名も作品名も知らずに、予告だけで飛び込んだ映画。
2023年初視聴作品ベスト2でした。
1年経って、冷静な眼で改めて視聴。
結果は、生涯ベストに入る事を確信した作品でした!
まずは眼を見張る、監督のバランス力!
現実と幻想、諧謔と狂気、正統と奇矯!
リアルな現実だけでは飽きられる。
奇抜な表現だけでは、重みが無い。
相反する二つの要素を巧みに紡いで、飽きさせないドラマ作りは、流石のひとこと!
各要素が深く掘り下げられていて、こちらの感情が一点に定りません!
3時間の長尺を、少しも気にさせない理由は、この点に尽きると思います!
次に、テンションの高い表現と、弾む様な音楽のビート!
冒頭の乱痴気騒ぎから始まって、性的倒錯や酒乱や狂乱、愛情と憎悪を、狂おしくも哀しく描いています。
そんな表現に呼応する音楽のビート!
これまた強烈に狂ってますよね!
劇伴が、おかかえの伴奏団が一緒に行動して奏でている、というのも観たことない表現で圧巻でした!
さらに、独特のユーモアが強烈です!
この作品の現実と恐怖と哀しみを繋ぐのは、笑いと滑稽です!
笑う事がカンフルになり、目の前の惨劇が耐えられるんですよね。
ストレスを緩和する笑いの力というか。
笑いがあればある程度の惨劇は大丈夫というか。
笑うという事への、力を感じた作品です!
話的には、旧ユーゴスラビアの衰退と新体制への変化を描いています。
この作品何が凄いって、こんなに難しい題材を扱っているのに、歴史や背景を知らなくても十分に楽しめる事です!
シーンの前後の運びがしっかり伝わる構成なのか、迷う事がありませんでした!
また各シーンにとても熱があるので、不満点に目が行かない作りになっています。
魅力をかいつまんで纏めました。
細部についても見所は山盛りです。
ただし、この作品が一歩もニ歩も秀でてるのは、ラストの表現です!
ラストの演出、最高に大好きです!
直前までの悲痛な展開で、私のライフは0!
クロも自分の息子とはぐれて五里霧中。
迷いや諦めに支配され、息子の幻影に誘われて、井戸の中に身を預けます。
水の中で次々と、挨拶を交わす登場人物。
テーマ曲に合わせ、続々と岸に上がる動物たちとキャラクターと伴奏団。
亡くなった人物も一同に会する大団円。
この発想! この表現!
「許してくれ」
「許そう、でも忘れないぞ」
待ってくれ!
そんなセリフ言われたら、泣いてしまう!
(すでにガン泣き)
友情は回復し、罪は水に流されました。
テーマ曲が場を盛り上げ、乱痴気騒ぎは続き、イヴァンが理想郷を語ります。
やがて島は切り離され、独立したユートピアを想起して、海に漂いました。
圧倒的な充実感を残して、物語は一旦幕を降ろすのです。
言葉にならない深い感傷に包まれ、心が痺れて、またしても、何度でも、私は席を立てずに放心するのでした!