van

アンダーグラウンド 4K デジタルリマスター版のvanのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

去年劇場でこの作品を観た時は。
あまりの衝撃で席を立てませんでした。
監督名も作品名も知らずに、予告だけで飛び込んだ映画。
2023年初視聴作品ベスト2でした。

1年経って、冷静な眼で改めて視聴。
結果は、生涯ベストに入る事を確信した作品でした!


まずは眼を見張る、監督のバランス力!
現実と幻想、諧謔と狂気、正統と奇矯!
リアルな現実だけでは飽きられる。
奇抜な表現だけでは、重みが無い。
相反する二つの要素を巧みに紡いで、飽きさせないドラマ作りは、流石のひとこと!
各要素が深く掘り下げられていて、こちらの感情が一点に定りません!
3時間の長尺を、少しも気にさせない理由は、この点に尽きると思います!


次に、テンションの高い表現と、弾む様な音楽のビート!
冒頭の乱痴気騒ぎから始まって、性的倒錯や酒乱や狂乱、愛情と憎悪を、狂おしくも哀しく描いています。
そんな表現に呼応する音楽のビート!
これまた強烈に狂ってますよね!
劇伴が、おかかえの伴奏団が一緒に行動して奏でている、というのも観たことない表現で圧巻でした!


さらに、独特のユーモアが強烈です!
この作品の現実と恐怖と哀しみを繋ぐのは、笑いと滑稽です!
笑う事がカンフルになり、目の前の惨劇が耐えられるんですよね。
ストレスを緩和する笑いの力というか。
笑いがあればある程度の惨劇は大丈夫というか。
笑うという事への、力を感じた作品です!


話的には、旧ユーゴスラビアの衰退と新体制への変化を描いています。
この作品何が凄いって、こんなに難しい題材を扱っているのに、歴史や背景を知らなくても十分に楽しめる事です!
シーンの前後の運びがしっかり伝わる構成なのか、迷う事がありませんでした!
また各シーンにとても熱があるので、不満点に目が行かない作りになっています。


魅力をかいつまんで纏めました。
細部についても見所は山盛りです。
ただし、この作品が一歩もニ歩も秀でてるのは、ラストの表現です!

ラストの演出、最高に大好きです!
直前までの悲痛な展開で、私のライフは0!
クロも自分の息子とはぐれて五里霧中。
迷いや諦めに支配され、息子の幻影に誘われて、井戸の中に身を預けます。

水の中で次々と、挨拶を交わす登場人物。
テーマ曲に合わせ、続々と岸に上がる動物たちとキャラクターと伴奏団。
亡くなった人物も一同に会する大団円。
この発想! この表現!

「許してくれ」
「許そう、でも忘れないぞ」

待ってくれ!
そんなセリフ言われたら、泣いてしまう!
(すでにガン泣き)

友情は回復し、罪は水に流されました。
テーマ曲が場を盛り上げ、乱痴気騒ぎは続き、イヴァンが理想郷を語ります。
やがて島は切り離され、独立したユートピアを想起して、海に漂いました。
圧倒的な充実感を残して、物語は一旦幕を降ろすのです。


言葉にならない深い感傷に包まれ、心が痺れて、またしても、何度でも、私は席を立てずに放心するのでした!
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