寝耳に猫800

Hereの寝耳に猫800のレビュー・感想・評価

Here(2023年製作の映画)
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余白に沈んでいける映画、個人的には毛布にくるまって半分ウトウトしながら観たかった

しかしゆったりとありのままを映しているようでいてときおり変調する瞬間がある、おそらく編集のテンポ的にバツッと切っているカットがいくつかあるせいだと思う(ラストカットはとても分かりやすいけども)

その他にもバスで隣になった人と腕が振れるか触れないかみたいなくだりや、苔の採集に付き合った相手と心が通じ合ったかと思いきや後ろで木の棒を振り回して折ったりして気まずい雰囲気が流れたりとかちょっとしたことに妙な緊張感を覚えるところもある

人が人と関わるときに、冷蔵庫を空にするために作ったスープを手渡したり苔に関する知識を話したりクッキーをあげたり、ミクロな贈与が関係をほんの少しだけ広げていく感じ

自然をありのままに撮っているようでいて光の感じや音の立体感も含めてとてもフィクショナルな美しさが追求されており、光の明滅が気持ちいいが自然のそれではなく間違いなく映画館のそれではある

本作のあとに同じ監督の『Ghost Tropic』も観たが、ここぞというときに歩いている人間を追うようなバックショットを使う傾向にある気がする、緑の中を歩いている人を追いかけるショットに引き込まれる

自分の専門分野の単語はスラスラ出てくるのに一度会った相手の名前が出てこないことってあるよね、でもその相手と交わした一瞬の親密さが嘘だったわけではない

表層的な印象だがアピチャッポン・ウィーラセタクンや、『Ghost Tropic』と合わせてケリー・ライカートが頭に浮かんだ