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ビニールハウスのkuuのレビュー・感想・評価

ビニールハウス(2022年製作の映画)
3.7
『ビニールハウス』
原題 비닐하우스/Greenhouse. 映倫区分 G
製作年 2022年。上映時間 100分。
劇場公開日 2024年3月15日。
貧困や孤独、介護など現代の韓国が抱える社会問題に根ざした物語が展開するサスペンス。
正規の住宅を失った低所得者層が、農業施設であるビニールハウスで暮らす事例などをベースに描く。
主演は人気ドラマ『SKYキャッスル 上流階級の妻たち』のキム・ソヒョン。
ムンジョン役のソヒョンのほか、ベテラン俳優ヤン・ジェソン、アン・ソヨらが顔をそろえる。
監督は本作が長編監督デビューとなるイ・ソルヒ。

貧困のためビニールハウスに暮らすムンジョンは、少年院にいる息子と再び新居で暮らすことを夢見ていた。
その資金を稼ぐため、盲目の老人テガンと、その妻で重い認知症を患うファオクの訪問介護士として働いている。
ある日、ファオクが風呂場で突然暴れ出し、ムンジョンと揉み合う際に床に後頭部を打ちつけ、そのまま亡くなってしまう。
ムンジョンは認知症の自身の母親をファオクの身代わりに据えることで、息子と一緒に暮らす未来を守ろうとするが……。

韓国の主流の映画作品の多くは、力強いスリラー映画で世界的によく知られている。
一方、韓国のインディーズはヒューマンドラマで評価されているように個人的には思う。
イ・ソルヒのデビュー作の今作品では、この2つのジャンルを巧みにミックスさせていて、隣県まで来て観た甲斐はありました。
脚本と監督、そして編集を兼任するイ・ソルヒのデビュー作は、インディーズ長編映画を彷彿とさせる陰鬱なトーンで始まる。
このパートでは、ムンジョンがいかにおとなしいかが強調されて、女性患者の非難を受けたり、温室の玄関の目の前で姦淫しているカップルを止められなかったりする。
特にムンジョンの男性患者である年老いたテガンはそう。
彼はムンジョンに親切で思いやりがあり、その年齢で健康状態に自信があり自立しているとさえ云えるが、後半で彼が見せる自責の念は巧みやった。
しかし、後半、イ・ソルヒ監督はギアを入れ替え、それまでドラマやったモンが、ある災難を境にスリラーに早変わりする。
特にこの2つの転換はうまく処理されており、どちらか一方から他方へとスムーズに流れていく。 ムンジョンが次第に取り乱すにつれて、この部分は時にファンタジックになりかけるけど、イ・ソルヒ監督はそれをうまくやり過ごし、観客を完全に惹きつけている。
こうしたファンタジックな要素はまた、今作品をダークでコミカルなものにするという二重の目的も果たしている。
この物語全体を貫くテーマとして、イ・ソルヒ監督は障害について、特に障害とともに長く生きることについて探求している。
イ・ソルヒ監督がうまく脚本を書けば、キム・ソヒョンの一流の演技がこの長編を引き立てる。 序盤の彼女の気弱な演技は、このキャラが取る奇妙な決断のいくつかを非常に信じやすくするのに役立っている。
誰かにちょっとした褒め言葉をかけられたとき、彼女の顔にじわじわとこぼれる微笑みはとても愛らしいが、災難の後、テガンと初めて会話を交わしたときの彼女の表情と声の内なる葛藤は、おそらくこの作品における彼女の最高傑作に違いない。
ムンジョンは複雑なキャラであり、キム・ソヒョンはそのためにベストを尽くしている。
アン・ソヨもまた、ムンジョンが新しく作る、ほとんど双極性障害の友人スンナム役で特筆に値するが、その存在はムンジョンの状況をさらに複雑にするだけ。
今作品のタイトルは『비닐하우스/Greenhouse』(温室)やけど、今作品の撮影には明るさも活気もない。
特にタイトルにもなっているGreenhouse(温室)が登場するいくつかのシーンは、イ・チャンドン監督の『バーニング』と似たような場面を故意か無意識か思い起こさせる。
音楽は巧みに使われていたし、緊迫した瞬間を効果的に高めている。
完璧な作品とは云えないかもしれないが面白い作品でした。
今作品は脚本家として、またイ・ソルヒ監督の素材の扱い方と、素晴らしい演技が物語るように、監督としてのイ・ソルヒの将来性を確かに示しているかな。
個人的には注目すべき監督の一人になりました。
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